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UPDATE|2024/03/07

作家・草凪優が今、アイドルを官能小説の題材にする理由「基本的には禁じ手、時代が変わって共感」

『どうしようもない恋の唄』(祥伝社文庫)は一般映画化。幅広い層にファンを持つ草凪優氏。撮影:sacocamera @sacocamera



『人妻アイドル』のヒロイン・乃愛もまた、ルックスこそAIイラストのような美貌の持ち主であるものの、普段は口数も少なくひとりで本を読んでいる、いわゆる陰キャの眼鏡女子だ。

とある事件をきっかけに主人公の高校教師、由紀夫と相思相愛となるが、17歳の女生徒と教師の禁断の関係は許されるわけもなく、ふたりは駆け落ち。結婚して子まで成すも乃愛はひょんなことからアイドルデビューすることになり、瞬く間にトップアイドルに駆け昇っていく。もちろん、既婚で子持ちであることはファンに秘密だ。しかし、それこそが魅力であると、乃愛にアイドルの才能を見出した敏腕女マネージャーのエリカは看破する。

<人を惹きつける魅力を放つには傷がいるの。いま現役で活躍しているアイドルでも、かつてはいじめられっ子だったとか、不登校の引きこもりだったとか、陰キャのコミュ障とか、そんな子ばっかりじゃない?(省略)そういう子がステージで輝くから、応援したくなるんじゃないかしら>

処女性が重要視されることは、アイドルも官能小説のヒロインも同じ。だが、アイドルという禁じ手に加えて既婚の子持ちというさらなる困難な設定を、ヒロインに担わせたのはどうしてなのか。

「山口百恵しかり、かつては芸能人っていうのは『小学生から牛乳配達してました』っていう貧しい家庭の出身が多かった。『あの人は苦労している』って共感が、人々の応援したいという気持ちを盛り立てた。いまはそうじゃない。上手く世渡りができない、世間に馴染めない、弾かれてしまったってところに、人々は共感する。

そこからもう一歩進めて、今回の作品『人妻アイドル』は、過去に恋愛事情でしくじった経験を持ちつつもアイドルとして売れていく女性をヒロインにした。だって、道ならぬ恋で足を踏み外すって、割とみんなあるじゃないですか」

本作には、恋愛やセックスを手放すことのできない、欲望のある生身の人間であることと、幻想を売ることが商売であるアイドルという存在であるべきことへの、乃愛の葛藤も描かれている。が、人妻であっても幼い頃からの夢であったアイドルになるという夢を突き通そうとする、まっすぐな気質の持ち主である乃愛は、あくまでも恋愛にも真摯に立ち向かう。


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