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UPDATE|2024/03/07

作家・草凪優が今、アイドルを官能小説の題材にする理由「基本的には禁じ手、時代が変わって共感」

『どうしようもない恋の唄』(祥伝社文庫)は一般映画化。幅広い層にファンを持つ草凪優氏。撮影:sacocamera @sacocamera

2004年『ふしだら天使』で官能作家としてデビュー。以後、20年にも渡り官能小説界の最前線で活躍し、200冊以上の著書を持つ名手・草凪優氏。息を飲むほどにエロティックな濡れ場にくわえて、官能小説の枠を超えた巧みなストーリー展開と、繊細な心理描写は、男性読者はもとより女性からの支持も多く得ている。そんな草凪氏の最新刊『人妻アイドル』(徳間文庫)のヒロインは<アイドル>――自身も熱狂的なアイドルファンだという草凪氏に、なぜいま、アイドルを官能小説のヒロインに据えたのか話を聞いた。

【画像】草凪優氏の最新作『人妻アイドル』

「基本的には官能小説のヒロインとして、アイドルは禁じ手。だってアイドルという存在は、疑似恋愛を売りにしていて性を隠しているし、これまではドリームすぎてヒロインとしてはありえなかった。けれども俺もそうだけど、いまって現実の人間関係の人よりもYouTubeで観ているアイドルのほうが近しい存在になってきている。

それこそ毎日LINEにメッセージが届くサービスもあるし、そういうふうに時代が変わってきたからこそ、いまならこれまでにないヒロインを描くことができて、さらには読者に受け入れられるんじゃないかって」

これまで官能小説のヒロインとして、アイドルが題材にされることが稀にあったとしても、決して手に届かない高嶺の花のヒロインを、徹底的に陵辱する作品が主だった。しかし、『人妻アイドル』のヒロイン・乃愛はアイドルでありながらも、恋愛もすれば、夢を抱いて未来を切りひらこうとする意志を持つ、現代的な息の通ったキャラクターとして描かれている。官能小説のセオリーを破りつつも、魅力的な“推せる”キャラクターにヒロインを成立させることに成功しているのは、草凪氏自身が深く「乃木坂46」に傾倒していた時期があったからだ。なぜ「乃木坂46」にハマったのか。

「50歳ちょっと手前、更年期で鬱っぽくなってしまった時期があった。それまではキャバクラで遊び狂っていたんだけど、ちょうどコロナ禍にも重なって家から出られなくもなって。仕方なくキャバに行く代わりに乃木坂の出ている番組を観て、コロナ禍をやり過ごしたんです。アイドルって日本にしかない異常なジャンル。実際、俺は若い頃からアイドルにハマった経験はなかった。唯一いたとすれば薬師丸ひろ子かな。でも彼女も女優だし、アイドルっていったいなんなのって思ってたんだけど、そのよさに気が付いたんです。アイドルは癒しの文化ですよ」

癒しというのは、アイドル自身の持っている<傷>と共感できることだと草凪氏はいう。

「国民的アイドルのとあるメンバーが、実は元いじめられっ子だったという噂があって。で、パフォーマンスを見ると、彼女は歌にも踊りにも演技にも、あまり興味がなさそうだと感じた。じゃあ、彼女は何が欲しかったか。それは居場所だと思うんです。彼女は自分の居場所を作るために必死になっていたんじゃないかと。また、元不登校児だったというアイドルもいる。そういう彼女たちの姿に、『俺もいじめられていた』とか『俺も学校に通えていなかった』とか感情移入するファンもいるはずだし、そんな彼女たちがステージで輝いている姿は癒しになる。

俺はいまのアイドルたちの多くが背負っている<自分の居場所を作る物語>が好きだし、小説を書く上で読者に対してのフックになるって思ったんです。官能小説でいえば、主人公はモテないという設定をされているのも共感のテクニック。女性との縁がない人生を歩いてきた人が主人公になるのと同じこと」


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