いつもであれば前日もしくは当日に通しリハーサルをやって最終調整をおこなうのだが、前日に別のコンサートが開催されていたため、今回ばかりはどうしても2時間で収めなくてはいけない、というのだ。
たしかにドタバタしそうな話だが、大変だ、と言いつつも田中美久の表情は落ち着いていた。
「個々のメンバーが当日までにすべてを完璧に覚えてきて、リハーサルで確認するだけにしておけばいい」。たしかにその通りではあるが、なかなかサラッといえるものではない。ふと脳裏に準備期間の重要性を熱弁する矢吹奈子の姿がよぎった。春のツアーを乗り越えたことで、HKT48の「新しいやり方」はメンバーのあいだにも定着したのかもしれない。なによりも田中美久が心配していた5期生と6期生、特に大きな会場でのパフォーマンスが初となる6期生がしっかりと躍動している姿には感心した。かなり目立つポジションを任せられたメンバーも多かったのだが、ちゃんとしているから、あんまり抜擢された感がないぐらい。
これまで何年もオープンニングを仕切ってきた松岡菜摘に代わり、新たにチームHのキャプテンに選ばれた豊永阿紀がこの日からその大役をバトンタッチされた。昼の部では明らかに緊張しまくっていて、6期生よりも心配になってしまったが、それもこれも「過渡期」ならではの新鮮な光景……だと昼の部までは思っていた。
しかし、矢吹奈子が大粒の涙を落とした夜の部のエンディングで「過渡期」は「歴史の大転換点」に激変することとなる。
【後編はこちら】HKT48矢吹奈子の卒業発表を見守る田中美久、やさしい表情から見えた9年間の絆