そんな仲村が輝いた日があった。今年3月、SKE48劇場でのソロ公演だ。1人4曲ずつ、自分の好きな曲をセレクトして、ファンの前で歌える。仲村は張り切っていた。
仲村「私、アイドルっぽい曲が好きなんです。アイドル=かわいい、なので。自分で映像を見返してみたら、楽しそうな顔をしていました(笑)」
表情から楽しさがこぼれ落ちていた。こんな顔もできるのかと驚いた。仲村の楽しさのバロメーターは目である。目ですべてを語ることができる。
自分が好きなものには心を開放できた。なのに、そのソロ公演の頃から始まった新公演のレッスンでは悪戦苦闘していた。心に鍵がかかったままだったからだ。
その瞬間は3回目のレッスンで訪れた。すでにSKE48の公式YouTubeでもその様子はアップされている。その日はレッスン前に、「今日は大きな声で歌おう」とメンバーで確認し合ってから臨んだ。なのに、先生から「全然声が出ていない」と叱られた。レッスンが終わると、後輩の青海ひな乃が「ちょっといい? 話し合った意味ないやん」と意見した。青海は思ったことを黙っていられないタイプだ。
仲村は思わず反論した。
「自分以上にやってる人がいるから、自分がまだまだだなと思って、自信持って言えない人もいるし。手を抜いてるわけじゃないから。それをちゃんと分かって言ってほしいです」
最後はほとんど涙声だった。人前で話すのが苦手な人間が初めて壁を越えた瞬間だった。その瞬間を振り返る。
仲村「私は自由にやりたいというか、意見を言わないタイプでした。思うことがあったとしても、意見することを避けてきました。でも、新公演のレッスンでは先輩も同期も後輩も意見を出してくれていました。自分も何か言わないといけないと思っていました。何か言うのは勇気が必要だけど、このレッスン中、どこかのタイミングで勇気を出さないといけないと決心していました。みんなが本音でぶつかってくれるなら、こっちも本音でぶつからないと。いい公演を作るためには自分も変わらないといけなかったんです。あの瞬間は、つい口から出ちゃったというのが正解かもしれません。でも、チームSのみんなはちゃんと受け止めてくれるから、言ってよかったです。今までの私はみんなに甘えていました」
本番を前にした最後のレッスン。「めちゃめちゃ伸びてる」と先生に褒められた5人のうちに仲村は入った。別の練習では「出来る組」に入れられた。選抜に入ったことがない仲村和泉が、である。自分のなかにあった壁が破壊されてから、レッスン場に向かう恐怖がなくなっていたし、表現する楽しさを感じるようにすらなっていた。過呼吸を起こすこともなくなった。
仲村「褒められたことは素直に嬉しかったです。でも、先生が求めているのはもっと上のレベル。課題はたくさんあります」