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UPDATE|2022/05/27

吉本新喜劇とNMB48、コラボミュージカルに見たファンを笑顔にしてきたアイドルの矜持

吉本新喜劇とNMB48が共演するミュージカル「ぐれいてすと な 笑まん」


「なんば」では、笑うとうつると言われる感染症 「アホナウイルス」が蔓延しているとの風評により、政府の感染対策として新喜劇の劇場は閉鎖、NMB48のパフォーマンスから「笑うこと」を禁じられてしまう。昨今の感染対策に縛られたアイドル現場を風刺するかのように、ライブ風景として1幕とはうって変わって無表情での「ナギイチ」のパフォーマンスが披露されるが、それはそれで様になっているのがシュールで、この舞台以外では二度とお目にかかれなそうなシーンでもある。終演後のアフタートークでもネタにされていたが、上西怜や新澤菜央ら天真爛漫なメンバーが多い中でポーカーフェイスの山本望叶が2幕ではますます笑わなくなっており、表情が顔に出にくい性格を逆手にとってかえって存在感を見せていた。

笑いが禁じられた状況を打開するために川畑ら新喜劇のメンバーが新喜劇復活を目指すが、そこに加わるのが笑顔のないライブに反発してNMB48を飛び出した渋谷・原かれん・本郷柚巴の3人。新喜劇の俳優とともにボケでズッコケ、本郷は松浦真也と森田まりこの「ヤンシー&マリコンヌ」の鉄板の持ちネタであるリンボーダンスに挑戦する。いつものNMB48劇場よりも広いステージで、発声から練習を重ねてきたというメンバーの劇場全体に響くセリフ回しやリアクションにも注目だ。

川畑の脚本をもとにミュージカル演出家の玉野和紀が演出・振付を担当したこの舞台には、コメディなだけでなく社会風刺のメッセージもしっかり込められている。ウイルスの流行や国によるエンタメへの介入など、ここ2年の世相を風刺しているかのような内容には、笑いやアイドルの果たす役目について考えさせられる。アイドルにとってのアイデンティティそのものである笑顔を奪われた世界で、どう生きていたいか。前出の渋谷・原・本郷のセリフは、コメディとして笑えるだけでなく、グループとファンを笑顔で元気にしてきた彼女たちの矜持を訴えているかのようでもある。

NMBと新喜劇に介入するウイルス担当大臣の秘書役の小嶋花梨は眼鏡をかけ、スーツを着て恵まれたスタイルが映える。役柄上笑いを取りに行くことは少ないように見せかけてセリフの端々でボケをかますので、クライマックスまで彼女にも注目してみてほしい。人々の間に笑いを取り戻そうとする加藤と、笑いを取り上げる側の小嶋は正反対の役回りでもあり、衣装や立ち居振る舞いも対照的な雰囲気づくりができていた。

ウイルスの正体など全てが明らかになった後、フィナーレでは玉野による書き下ろしの主題歌を出演者全員でパフォーマンスし、作品のコンセプト通りに笑いと元気を観客に届けて幕が下りる。どこまでがアドリブで、どこまでが台本なのかがわからない上に、日替わりゲストとのトークで公演ごとに客席を沸かせる演者も違ってくるこの舞台、アイドルのファンもリピートするごとに見どころが増えていくだろう。

【あわせて読む】吉本新喜劇&NMB48がタッグ・川上千尋がミュージカルを語る「将来につなげられる成果を」

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