2時間ドラマが量産された頃は、撮影日数も限られており、過酷な現場も多かった。
「映画と変わらない尺ですから、僕が2時間ドラマに出始めた頃は、同じように時間をかけなきゃ作れなかった。それが、いろんな事情で時短されていって、気づけば10日間で撮らなきゃいけなくなった。そうなると1日の分量は増えていきます。でも人間ですから、そんなに集中力は続かない。しかもロケものだと自然とも戦っていかなきゃいけないですから、とにかく過酷でした」
2時間ドラマのクライマックスと言えば、“崖”の印象が強いが、「皆さんが思っているほど崖に行っている訳ではないんです」と振り返る。
「日本は島国ですから、どこに行っても崖はあります。内陸部ですら、山岳地帯には崖がありますからね。ただ、全ての作品で崖に行く訳ではないですし、僕の出演作でも崖は半分もないですよ(笑)。それだけ崖はインパクトが強いんでしょうね。崖のシーンに恐怖心はありません。撮影中はアドレナリンも出ますから、恐怖なんて味わっている暇がないんですよ。むしろ僕がギリギリまで行くものですから、年中スタッフに怒られていました」
2時間ドラマの撮影で全国津々浦々を訪れ、30代半ばにして全県を制覇したという。
「それだけ旅情サスペンスと呼ばれる作品が多く作られていたんですよね。僕がやらせていただいているシリーズも、ほとんどが旅情ものですから。なぜ、それほどまでにニーズがあるかと言うと、一つは疑似体験ができるということですよね。お茶の間にいながらにして、様々な風光明媚な場所を巡ることができて、登場人物たちが美味しいものを食べれば自分たちも食べたような気持ちになれる。あるいは自分自身が旅に行く時のレシピも、それを参考に組み立てることもできますし、いろんな楽しみ方がありますよね。
もう一つは松本清張さんの小説で大ヒットした作品は旅情ものが多い訳です。西村京太郎さんにいたっては、ほとんどが旅情ものですから。旅情っていうぐらいですから、『旅に情け』で、そこにドラマがある訳です。だからドラマを構築しやすいっていうのもあるでしょうし、日本人はやっぱり旅が好きなんです」
現在、地上波民放で2時間ドラマのレギュラー枠は消滅、完全撤退を表明したテレビ局もある。だがBSなども含めると毎日のように過去の名作が放映されているし、不定期ながら新作も作られ続けている。
「2時間ドラマは事件を解決していく、犯人を探していく、それを皆さんに楽しんでいただくミステリーが基本。でも、その骨格には繊細な人間ドラマがあって、ホームドラマやラブストーリー、時にはコメディも存在します。だからこそ、今まで映画やテレビドラマでたくさん語られてきた全てのカテゴリーが、2時間ドラマの中にギュッと凝縮されて詰め込まれている気がするんですよね。
あと2時間という尺。映画の大半も2時間前後ですが、これは長い歴史の中で、人間が一番集中してリラックスして楽しんで見られる時間だろうと。しかも一話完結ですっきり終わる。だから多くの方に支持されてきたと思うんです」