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UPDATE|2022/04/10

人気・実力ともに随一、官能小説界のエース作家・草凪優がいまプロレス小説を書いた理由

3月22日に発売となった草凪優氏のプロレス小説『ラストバトル プロレス哀歌』


本作『ラストバトル プロレス哀歌』では、プロレスファンが読めばニヤリとしてしまうような小ネタやオマージュが随所に織り込まれている。プロレスを引退してラーメン屋を営む主人公・川岸幸正のモデルは、おそらく川田利明。10年ぶりにリングに復帰する川岸と対戦する相手のナカタシンジはオカダ・カズチカということで間違いないだろう。そのほかにも「お前、普通にしとけよ」(三沢光晴)、「レスラーは金と女とクルマにしか興味がない」(ターザン山本!)などといったマット界の名言・格言が頻出するのだ。

「好きな人にクスっと笑ってもらいたかったんですよ。物語の根幹とはあまり関係ないかもしれないけど、そういったディティールでキャラクターが伝わりやすくなる側面もありますし。プロレスをテーマに書くんだったら、きちんと細かいところまでやり切らなくちゃいけないというこだわりが自分の中にありまして。だからこそ、通常より時間がかかってしまったんです。だけど書き終わったときは今までになかった充実感とともに、気持ちが若返ったような感覚がありましたね」

 プロレスを小説化する際に難しいのは、ブック(あらかじめ決められた試合の展開)やアングル(軍団抗争などのストーリーライン)といったデリケートな“隠し事”が存在することだろう。『ラストバトル プロレス哀歌』では、かなり踏み込んでこれらの仕組みについて描写している。それによって単純な勝負論だけでなく、物語に深みが生まれてくるのだ。

「今でも新日本プロレスはWWEのようにカミングアウトしていないし、それはプロレス専門誌だって同じ。でもミスター高橋さんの本や別冊宝島が出ていて、ケーフェイ(プロレス業界内部での秘密)が一般にも知れ渡っている以上、そこを隠すのは逆に不自然じゃないですか。僕自身の考えを言うと、“アングルがあって何が悪いの?”という立場なんです。松村友視さんが『私、プロレスの味方です』で“プロレス=演劇論”を展開しましたよね。だけど厳密には演劇の中にも戦いはある。そして、それこそが競技化された総合格闘技にないプロレスの面白さなんです。相手へのジェラシーなど生々しい感情があるからこそ、試合にもドラマ性が出てくるわけでね。ある意味、プロモーターが刺されることもプロレスの一部。真剣勝負と演劇論を二分化するのではなく、プロレスというジャンルはもっと立体的に楽しむものだと僕は思う」

 最後に草凪氏は「僕の官能小説やプロレスが好きな人はもちろん、今回は老若男女に読んでほしい」としながら、作品に込めた熱い想いを吐露した。

「この本で伝えたかったのは、結果よりも大事なのは挑戦する姿勢だということ。それを僕はプロレスから学んだんです。青臭いかもしれないけど、これは人生の真理だと思いますよ。生きるというのは、ずっと戦い続けることなんです。歳を取ると日常生活に埋没しがちですけど、いくつになっても挑む心は忘れちゃいけないなって僕も自分に言い聞かせています。これまで僕は作品の中で“女の色気”を書き続けてきましたが、今回は“男の色気”を全力で書いた。これからも死ぬまで挑戦し続けていきたいですね」


▽くさなぎ・ゆう◎1967年、東京都生まれ。日本大学芸術学部中退。シナリオライターを経て、2004年に官能小説家としてデビュー。05年『桃色リクルートガール』、10年『どうしようもない恋の唄』で「この官能小説がすごい!」大賞を受賞。官能小説界のトップに上り詰める。近年はハードボイルド小説、サスペンス小説の分野へも進出し、『黒闇』(15年)、『悪の血』(20年)など注目作を次々と発表している。

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AUTHOR

小野田 衛


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