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UPDATE|2022/04/10

人気・実力ともに随一、官能小説界のエース作家・草凪優がいまプロレス小説を書いた理由

3月22日に発売となった草凪優氏のプロレス小説『ラストバトル プロレス哀歌』


 今回、プロレスをテーマに執筆することになったのは担当編集者の熱意によるところも大きかったと草凪氏は振り返る。官能小説ならではの特徴としてよく挙げられるのは、プロットを作家と編集者が二人三脚で練り上げるケースが多い点。そうした打ち合わせの中、「正面からプロレスを書いてみよう」と盛り上がったのだという。

「僕の作品はオーソドックな官能スタイルから逸脱して、サスペンスやバイオレンスの要素を入れることも多いんです。でも一方で官能小説は“お約束”の世界でもあるので、どこまで型を崩していいのか編集者と綿密に打ち合わせする必要があるんですね。オリジナリティとポピュラリティのバランスを取るのはエンターテインメントの世界で非常に大切なことですから。竹書房の担当編集の人とは20年近くのつき合いになるし、根っからのマニア体質だから電話したら必ず喫茶店トーク(プロレスについて論じること)に花が咲く。彼に背中を押してもらった部分は大きかったです」

草凪氏は最大で年間20冊以上、平均でも年間10冊~12冊ほどの単行本を上梓する超売れっ子官能作家だ。しかも、そのほとんどは書き下ろし。そのほかにも新聞や雑誌の連載を数多く抱えている。つまり読者や出版社から「もっと官能小説を書いてほしい」というニーズが絶えないにもかかわらず、新たなジャンルに挑戦することを決意した。しかし、さすがに格闘とエロスではまったくの水と油。無謀な試みにも思えるのだが……。

「意外に官能小説の延長線上で書けた部分も多かったです。アントニオ猪木さんは、よくプロレスの試合を性行為に例えるんですね。プロレスファンは “噛み合った試合” “手の合う相手”といった表現を好んで使いますが、これなんてまさに寝室での行為そのものじゃないですか。プロレスも濡れ場も裸の人間が1対1で向き合うものだから、僕の中では同一線上にあるんですよ」

 実際の執筆にあたっては、バトルシーンの描写に全力を注いだ。臨場感溢れる試合展開は読んでいて手に汗を握るほどだが、実はこれも官能小説での経験が活かされているという。通常、官能小説は「普通の物語描写」と「濡れ場描写」の2パートで成立する。官能小説ファンの中には「濡れ場だけ読めればOK」という人もいるが、逆に草凪の読者からは「濡れ場は飛ばして読む」という声も出るらしい。

「僕の作品は物語やキャラクターをかなり重視しているので、濡れ場描写が邪魔に感じる局面が出てくるらしいんです。気持ちはわかるんですけど、それはそれで書いているほうしては反省してしまいまして。だから自分が書く際に心掛けているのは、濡れ場が取ってつけたようには感じさせないこと。安っぽいAVみたいにはしたくないし、整合性や必然性がないと物語に感情移入できない。だから“登場人物の生き様を反映させた濡れ場”を書くようにしているんです。プロレスの試合描写もまったく同じですよ。“男たちの生き様を反映させたバトルシーン”にしたつもり。“試合展開”と“全体の物語”と“レスラーのキャラクター”の3つが寄り添っていなくてはいけない」
AUTHOR

小野田 衛


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