蝶野正洋が、武藤敬司が、前田日明が、藤波辰爾が、そして長州力が!
あのころのテーマ曲でリングに登場し、田中ケロがコールする。ケロさんは昨年、新型コロナウイルスに感染し、リハビリも含めてじつに6カ月半もの入院生活を余儀なくされてきた。こうやって記念すべきリングに立ち、コールをしている姿を見るのもまた感無量。なによりもよかったのは、ダラダラと記念式典をおこなったりせず、レジェンドたちの登場がメインとなるシンプルなセレモニーとなったこと。なつかしのテーマ曲の連発で、もう大満足。さらに記念撮影の合間には歴代の『ワールドプロレスリング』(テレビ朝日で現在も放送中の新日本プロレスの中継番組)のオープニング曲のメドレーがずっと流れていたこと。ここまでプロレスを「聴く」ことに特化して楽しめるセレモニーになるとは思っていなかったので、本当に胸がいっぱいになった。50年ってすごい、テーマ曲の力ってすごい!
もっとすごいのはセレモニーに参加したレジェンドの中から、藤波辰爾、藤原喜明、越中詩郎、田中稔が現役レスラーとして試合にも出場したこと。現在進行形の入場テーマ曲として、もう一度、武道館に鳴り響き、今度はスーツ姿ではなく、コスチュームでリングに登場した4選手。なにがすごいって、やっぱりプロレスはすごいんです!
とてもいい興行を見て、多幸感に浸りながら帰宅し、この日から先行発売された新日本プロレス50周年記念CD『NJPWグレイテストミュージック50th.SP』(キングレコード)をさっそく再生したところ、即、武道館での興奮が蘇ってきた。
3枚組で構成されるこのCDは基本的に現在、活躍している選手たちのテーマ曲集なのだが、1枚目の「Nostalgic」だけは完全に80年代と90年代のテーマ曲に限定。しかも、楽曲の前に田中ケロによる選手の呼びこみ口上、さらに曲中にはリングインコールまで収録されているではないか! 聴けば入院中にわざわざ外出許可をもらってレコーディングをした、という。まさに魂を込めまくった作品だった。
普通の音楽CDであれば、曲中に別の音声を挿入するとはなにごとだ! と激憤されてしまうところだが、ある意味、この日の武道館での50周年記念セレモニーがそのまま再現されたようなもの。1曲ずつ聴くというよりも、1枚を通しで聴いて、ひたすら脳内で90年代の東京ドームでの入場シーンを再生する、というのが正しい楽しみ方。『パワーホール』にはじまり『怒りの獣神』まで連なる7曲は、マニアならばすでに音源を所持している名曲ばかりなので、50周年だからこそ実現したスペシャルバージョンを愛でていただきたい、と思う。
このCDに収録されているオカダ・カズチカのテーマも、棚橋弘至のテーマも、新日本プロレスが70周年や80周年を迎えるときには「あぁ、なつかしい!」と受け入れられるものになっているはず。そのためには今、会場に足を運んでくれているファンをずーっと夢中にさせなくてはいけないし、新しいファン層も常に開拓していかなくてはならない。プロレスと音楽は、こうやっていつまでも美しい思い出を紡ぎながら、たくさんの人たちの脳裏に流れ続けていく。
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