──スポーツの世界でいうところの、ゾーン(極限の集中状態)に突入したということなんでしょうね。
佐藤 ただ、やっぱりフィジカルの限界が来ちゃったんですよ。最初の10分で6kgくらい入れていたので、自分の意思とか根性とは関係なく、肉体のほうから「バン!」とストップがかかってしまった。それで結果的には最後の2分くらいで逆転されたんですけど……。「アメリカの試合時間だったら勝っていた」とも言われましたが、負けは負けですから。要するにあれが選手としての私の限界だったんだと思う。もちろんそのあとも惰性で続けていたわけでは決してないんですけど、残念ながら2016年のニューヨーク・タイムズスクエアを超える情熱は自分の中から湧き上がらなかったです。
──現在はYouTubeチャンネル「おなかがすいたらMONSTER!」を開設し、こちらでも大食い動画を積極的にアップしています。
佐藤 YouTubeでの大食いは「戦い」ではなく、あくまでも「食べることって楽しいね」というメッセージを伝えたくてやっているんです。結構そこは自分の中で大きな違いなんですよね。YouTubeでも対決することはたまにあるんですけど、それはエキシビジョンマッチみたいなものであって、「1人対3人でバトルしたらどうなる?」みたいな内容。出演してくださる方にも「自分の限界に挑むような真似は絶対にしないでください」と伝えていますし、競技とはかけ離れたところでやっていますから。
──なるほど。同じ大食いでもコンセプトが根本から違うわけですか。
佐藤 食という行為を突き詰めて考えていくと、農家や酪農家の方たちの想いだったりとか、調理をされる方の創意工夫だったりとか、そういった部分に対する感謝や恩返しの気持ちが自然と私は出てくるんですね。食に関わる人たちを応援したいと思うし、「食べるのが好き」というシンプルな気持ちをもっともっと還元していきたいなと考えています。食べることが幸せ。だから一食一食を大切にしていく。そうすると毎日の生活で幸せがどんどん増えていくんだよ。……そういうことを伝えていくのが、私が所属するエッジニア合同会社で展開中の「OTEMOTO プロジェクト」なんです。