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UPDATE|2024/03/21

【何観る週末シネマ】事件を通して描かれるのは、フランス社会における女性への偏見の過去と今『12日の殺人』

© 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、現在公開されている『12日の殺人』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】『12日の殺人』場面写真

〇ストーリー
10月12日の夜、ある女子大生が何者かに殺された。だが刑事はまだ知らなかった、この“未解決事件”が自分自身を蝕んでいくことを。フランス南東の地方都市グルノーブルで、10月12日の夜、帰宅途中の21歳の女性が何者かに火をつけられ、翌朝焼死体という無惨な姿で発見される。そして、地元警察でヨアンを班⻑とする捜査班が結成され、地道な聞き込みから次々と容疑者が捜査線上に浮かぶも、事件はいつしか迷宮入りとなってしまう...浮かび上がる容疑者、そして掴めない証拠。あなたも気がつくだろう、いつの間にかこの事件に蝕まれていることを……。

〇おすすめポイント
東京国際映画祭でも話題となった『悪なき殺人』(2021)で、独特な視点と圧倒的脚本術を世界に知らしめたドミニク・モルの最新作。今作もフランスの未解決事件を扱ったストレートなミステリーかと思いきや、そうではない。

もちろん、そういった側面はあるし、入り口としてはミステリーかもしれないが、ひとつの未解決事件を通して描かれているのは、フランスの社会が抱えていた女性差別や偏見、警察内部の体制への問題提議だ。

男性社会の警察内部の人々は、捜査というよりも仕事という意識が強く、業務的にこなしていく。そして社会全体が女性に対しての偏見や男性優位主義的思想が蔓延っていることで視点の一方化を避けることができない。

つまりフランスにおける未解決事件は、警察組織や社会の視点が偏っていたことが原因だったと言わんばかりに強いメッセージが描かれるのだが、それは実に静かだ。

女性が生きたまま火あぶりにされて殺されるという、凶悪事件を扱っているというのに、常に視点は事件とは別のところにある不思議な感覚で、その違和感を散りばめている。まるで違和感を浮遊させているかのような巧妙な構成はさすがドミニカ・モルの脚本術としか言いようがない。

また今作は、それだけで終わりではなく、時代の変化も描こうしているのだ。

時代は変化し、警察や行政にも女性の活躍の場が広がったことで、視点が広がり、偏見も薄れてきている。まだまだ多くの課題が残されているかもしれないが、かすかな希望も覗かせているといえるだろう。

© 2022 - Haut et Court - Versus Production - Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

〇作品情報
監督:ドミニク・モル 脚本:ドミニク・モル/ジル・マルシャン
原案:ポリーヌ・ゲナ作「18.3. Une année passée à la PJ」
出演:バスティアン・ブイヨン/ブーリ・ランネール/テオ・チョルビ /ヨハン・ディオネ /ティヴー・エヴェラー/ポーリーヌ・セリエ/ルーラ・コッ
トン・フラピエほか
配給:STAR CHANNEL MOVIES
公式サイト:12th-movie.com
(2022/フランス/原題:La Nuit du 12/114 分/ビスタ/カラー/5.1/字幕翻訳:宮坂愛)
2024 年3月15日(金)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー!

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