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UPDATE|2024/03/08

【何観る週末シネマ】インドでは意外と珍しいストリートダンスムービー『ストリートダンサー』

©Remo D’Souza Entertainment ©T-Series ©UTV Motion Pictures

この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、現在公開されている『ストリートダンサー』。気になった方はぜひ劇場へ。

【写真】ダンスシーにも注目、『ストリートダンサー』場面写真【10点】

〇ストーリー
舞台はロンドン。インド系の青年サヘージ(ヴァルン・ダワン)率いるヒップホップ・ダンスグループ「ストリートダンサー」と、パキスタン系の女性イナーヤト(シュラッダー・カプール)率いるチーム「ルール・ブレイ カーズ」はライバル同士で、街中で鉢合わせするたびに、火花を散らすダンスバトルを繰り広げていた。そんな ある日、10万ポンド(約1,800万円)の優勝金が獲得できるダンスバトル「グラウンド・ゼロ」の開催が発表される。別々の目標のもとグラウンド・ゼロに参戦したサヘージとナーヤトだったが、あるきっかけから友情が芽 生え、同じ目的を持ち、コンペティションを勝ち進んでいく…。

〇おすすめポイント
インド映画というと、ダンスのイメージも強いかもしれないが、ダンスを扱った映画というのは、実はそれほどない。

2000年代後半からインドでも人気を博し、2010年代に入るとネットが普及したことによって、一気に広まったヒップホップダンス。映画業界も若者にコミットするために、ダンスシーンでは、より現代的なダンスを取り入れるようになっていったが、ダンスが題材となった作品自体が制作されることはなかった。

そんななかで制作された「ABCD」シリーズは、振付師(コレオグラファー)のレモ・デソウザが監督を務めて制作されたシリーズだ。

レモの初監督作品のベンガル語映画『Lal Pahare’r Katha』(2007)は、ベンガル舞踊「チョウ」を扱ったドキュメンタリータッチの作品であったり、2作目『F.A.L.T.U』(2011)もダンスシーンを多く取り入れた青春群像劇であったことから、前々からダンスを主体とした作品を制作したいという構想はあったのたろう。

レモのほかにもファラー・カーンやアフメド・カーンのように、コレオグラファーから監督になる者も珍しくはない。インドにおけるコレオグラファーはその名の通り振付師という意味もあるのだが、それだけではなく、ミュージック・ビデオや歌唱シーンの演出や構成までも手掛けることが多い。すでに監督業のようなことをしている者も多く、そこまで離れた業種ではないのだ。

そして「ABCD」シリーズの第3弾となるのが、今作『ストリートダンサー』だ。もともとディズニーと提携していたUTV制作のインド映画でもあった「ABCD」シリーズということもあり、タイトルが継続して使用できないという裏事情からタイトルが変更となったものの、そもそも物語が続いているわけではない。

『ABCD: Any Body Can Dance』(2013)と『ABCD2』(2015)は、プラブデーヴァーが演じていたキャラクター名も同じで、なんとなく繋がっていそうでそうでもないような処理のされ方だったが、今作の場合は俳優は同じであってもキャラクター名や設定が一新されており、前作を観ていなくても全く問題ない構成となっている。

1作目はプラフデーヴァーが主人公、2作目はプラフデーヴァーがメンター的立ち位置でヴァルン・ダワンとシュラッダー・カプールの若い世代を描いたものとなっていたが、今作は丁度、中間的なバランス作品となっており、前作以上に3人が主人公という印象が強くなっていた。

そこにノラ・ファテヒが参加したことにより、ノラのエネルギッシュなダンスシーンは、作品にとって大きなアクセントとなっている。

ノラはもともとモロッコ系カナダ人でありイギリスのエイミー・ジャクソンやスリランカのヨハニやジャクリーン・フェルナンデスのようにインド人ではないが、インドを拠点に活躍する女優兼アーティスト。近年はUSツアーを成功させ、今年の2月にはブリトニー・スピアーズやビヨンセの振付を務めたジョジュ・ゴメスを起用し、新曲「Im Bossy」をリリースするなど、グローバル・アーティストとしての道を着実に進んでいる。

今作でレモと出会ったことで、ベリーダンスとヒップホップの融合をより模索するようになっていき、オーディション番組「ヒップホップ・インディア」では、レモと一緒にホスト兼審査員を務めるほどになるなど、今後インド音楽業界を牽引する存在ともなっている。今作が制作されたことはインド音楽業界としても大きな分岐点だったといえるかもしれない。

ちなみにプラブデーヴァーも監督と同じくコレオグラファーというだけではなく、マイケル・ジャクソンをリスベクトするダンサーとしても知られている。そのためプラブデーヴァーのダンスシーンは全体的にマイケル・ジャクソン風になっているのは、どの作品も変わらないといったところだ。

ダンス主体ということでストーリーがざっくりしているのも前2作と変わりはないが、今回はローヒト・シェッティ監督作品『チェンナイ・エクスプレス 〜愛と勇気のヒーロー参上〜』(2013)や『スーリヤヴァンシー』(2021)などに参加したことのある脚本家のファルハド・サムジを起用したことも影響してか、貧困や人種問題などの社会派なものにしようと試みたようにも感じられるし、「音楽は世界をひとつにする」といったメッセージ性を何となく盛り込もうとしていたのだろう。

とはいえ結局のところエンタメ映画。とにかくダンスパフォーマンスを楽しむ作品となっている!!

©Remo D’Souza Entertainment ©T-Series ©UTV Motion Pictures

〇作品情報
監督:レモ・デソウザ(『フライング・ジャット』)
出演:ヴァルン・ダワン(『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え! No.1!!』)、シュラッダー・カプール(『サ ーホー』)、
プラブデーヴァー(『Rラージクマール』)、ノラ・ファテヒ(『バーフバリ伝説誕生 完全版』)
2020 年/インド/ヒンディー語/142分/G 原題:Street Dancer 3D
配給:SPACEBOX
3 月1日(金)より新宿ピカデリーほか 全国ロードショー!

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