『哀れなる者たち』を観て、「女性が体を売ってお金を稼ぐなんてけしからん」というネガティブな意見を持つ人もいるかもしれません。でも、特定のパートナーがいない、結婚もしてないなら、個人の自由だというのも正論です。こうした考えについていけないのは、だいたいは男たちのほうなんですよね。ベラは「倫理で価値観で縛ってくるけど、それはあなたが私のことをカゴの鳥にしたいだけなのでは?」という真理を突きつけてくるんですね。
ただ、この『哀れなるものたち』のいい所は、そんなテーマを寓話的に描くことで、生々しくもファンタジックに表現しているところです。
なんといっても衣装や美術が豪華絢爛。この作品の世界観はスチームパンクという、蒸気機関が発展した架空の未来で、細かなところまで凄くよく出来ている。
その凝りに凝った美術セットは、実物大でめちゃくちゃ広大に作ったそうです。ぜんぶ歩くだけで30分かかるそうで、そのままテーマパークにして開放してもいいんじゃないでしょうか。
そんなファンタジックな雰囲気のなかで、ガツンと芯が通っているのが、エマ・ストーンの存在感です。もう体当たりの演技とかいうレベルじゃなく、すべてさらけ出しています。あの、『アメイジング・スパイダーマン』のグウェンが、『ラ・ラ・ランド』のミアがここまでやるんだという驚きと、そこまでやらなくてもいいのにという気持ちが同時に沸き起こります。
エマ・ストーンは、本作で今年のアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされていますが、これは取るでしょう、というか、ぜひ取って欲しいと思いますね。
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