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UPDATE|2023/02/23

高知東生が初小説で転落の半生を綴る「今、僕は生き直している最中ですから」

高知東生 撮影/武田敏将



だが、東京での生活は甘くなかった。ときにはホームレス生活も経験しながら、原宿のテント村で働きつつチャンスを伺っていたという。その後、ホストクラブに勤務するようになると、ディスコのVIP席で羽振りのよさそうな連中が薬物を使用しているところに遭遇。よく見れば有名モデルも優雅にはべらかしている。俺もこんなふうになりたい──。そう考えた高知は、初めて覚醒剤に手を染めた。

「言い訳に聞こえるかもしれないけど、僕にとって覚醒剤は成り上がるための“手段”だったんです。実際、その前後からAV業界でプロデューサーとして活躍できるようになったし、自分のプロダクションも設立した。最初の奥さんもアダルトビデオで人気絶頂だった女優さんでしたしね。やっぱり自分みたいなカネもコネもない田舎者が上を目指すとしたら、情報を掴むしかないんです。情報を掴むためには、彼らの仲間になるしかない。だから『お前、やったことあるの?』って(薬物を)回されたときに、やったことなんてなかったけど平然とした顔をしながら『うん、あるよ』って応えた。なんだかそこで試されている気がしたんですよ。自分としては、仲間として認められたい一心だったんです」

強烈な上昇志向を胸に、なりふり構わず奮闘してきた高知。しかし、いざ自分が他人からうらやましがられる立場になったところで、『どうせ俺なんて……』と卑下する気持ちは消えなかった。結局、カネやオンナやクルマでは自身の虚無感を埋められなかったのだ。それは育った環境も影響したことだろう。

「母親が死んでからは天涯孤独の身だったから、自分には家族なんて関係ないと思っていました。でも結局、そこが大きかったんですよね。なにも薬物の問題だけじゃありません。なぜ自分は常にイライラしているのか? なぜこんなに世の中にストレスを感じるのか? なぜ女たちのことを信用できないでいるのか? 依存回復プログラムをこなしていく中、自分が育った環境を見直すことを余儀なくされたんです。そういう意味では、これは治療の一環。今、僕は生き直している最中ですから」

その気になれば、人間は何度だって立ち上がれる。今の高知はそう自分を鼓舞しながら、作家としての第一歩を踏み出した。不器用な男の真摯な想いに唸らされる(後編へ続く)。

【後編はこちら】薬物、ヤクザの息子…高知東生が波乱の半生を小説に 「諦めるなよ。こんな俺だって踏ん張っているんだから」
AUTHOR

小野田 衛


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