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UPDATE|2022/08/10

東大芸人・大島育宙が絶対M-1に出ない理由「ネタ至上主義と仕事の本質はつながらない」 

XXCLUB 大島育宙  撮影/松山勇樹



──「誰かと競うことをやめる」というのもあったんですよね。

大島 芸人をはじめて3年目に「競争には参加しない」と決めました。お客さんに届くかどうかに競争は関係ないと思って、できるだけ競争のない場所に行こうと。と言いつつ一番の理由は自分のメンタルを守るためですね。スポーツをまともに観れないくらい競争が精神的に苦手なので(笑)。あとは「両論併記できる場所にしか行かない」「知らない人にジャッジされる場所に行かない」とも決めました。

「誰なんだ?」という審査員にオーディションされて不本意な結果になった時、誰のせいかわからなくて、自分を責めてしまうストレスも無駄。そんな時間があれば、本や漫画を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いていたほうがいいので、僕には合わないですね。

「両論併記できる場所にしか行かない」というのは、長尺でしゃべることができるか、長文を書けないと、大げさな見出しだけが拡散されて、消費されてしまう。自分の価値観がわからなくなっていくような人にはなりたくない。「このままだと自分の心が壊れてしまう」という恐怖心から、この3つを決めました。それで、知り合いに勧められてYouTubeをやってみたら「無限にしゃべることができる!」と気づきました。オーディションに行かず、YouTubeに専念するようにしたらお仕事が増えたので、後輩芸人には「オーディションは行くな」と言ってます。「なんだコイツ?」と思われてるでしょうが(笑)。

──『M-1グランプリ』に参加しないと決めたことも、その3つが理由なんですか?

大島 『M-1』は競争で、1回戦を審査しているのは知らない方たちで、ネタの尺も短いので、自分で決めた「やらないこと」の条件全部に当てはまるんですよ(笑)。得意だと思えていたらチャレンジし続けたかもですが、アマチュア時代に3回戦に行けたのに、プロになったらそれ以上上に行けなかったので、辛くてすっぱり諦めました。

──『M-1』の尺や審査員に対して思うところがある芸人は確実にいて。でも、みなさんそのルールの中で戦うことを選んで参加していると思います。

大島 僕は他の芸人に比べて、ネタ以外のことをやってみて、その中に活路を見出すことができた。ネタ一本で勝負している芸人は「他のことをやるくらいなら1本ネタを書きたい」と思っているんだろうけど、僕はそれが怖くて仕方ないですね。いまネタを1本書いても10年後にまったく無駄になっている可能性が高くて、それに比べたら作家や怪談師を少しやった経験のほうが無駄にならないと思うタイプです。中学時代を振り返ってもそもそもネタをやりたくて選んだ道ではないですし。あと賞レースを否定するつもりはないけど、事務所は賞レースやオーディション至上主義を煽るだけじゃなくて、芸人がメンタルヘルスを壊さないように指導することも必要だと思います。

──アイドルのメンタルヘルスはたびたび問題になりますけど、芸人のメンタルヘルスはそこまで話題になっていない印象があります。

大島 芸人をやめる場合「結婚や出産で守るものができたから」という理由が多いけど、精神を壊してしまったケースも数え切れないほど見てきました。公に発表しないからファンには「やる気がなくなってしまったのかな」とだけ伝わってしまう。賞レースに出ている間はアドレナリンが出て頑張れると思うんですけど、その後は大丈夫なのかなという心配はあります。(後編へ続く)

【後編はこちら】『あな番』考察で大ヒット、コンテンツ全部見東大生 大島育宙「酷評のための酷評はしない、それが仕事」

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