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UPDATE|2020/09/09

コロナ下の東京五輪について考える「それでも開催するべきだというこれだけの理由」

NHKのアナウンサー、解説委員として長年オリンピックを間近で見てきた刈屋富士雄氏


──それにしても予想外だったのはコロナの終息がなかなか見えないこと。来年、東京でやるにしても現状だとクラスター化の懸念が拭いきれません。

刈屋 もちろんあらゆる対策をするべきなんですけど、それでも無観客ではやるべきじゃないというのが私の考えです。先ほど「不完全な形であっても開催するべき」と言いましたが、観客は入れるべきです。それから観客数を減らすとしたら、若者を中心に会場へ入れてほしい。

──なぜですか?

刈屋 なんのためにオリンピックを開くのか? 話はそこにさかのぼるんです。開催国の経済発展、国民を元気にする効果、文化的な向上、人権問題の解消、そして究極的にはスポーツを通じた世界平和……オリンピックにはいろいろな側面があるでしょう。私自身としては、「若い人たちに世界の真剣勝負を見せる」。これが一番大きいと思っているんですよね。世界一をその場で決める空気感というのは特別で比類がない。世界中が注目する中でメダルを争うというのは本当にすごいことなんですよ。私はどうしても日本の若い世代にその空気を味わってほしいんです。近くでオリンピックが開かれることなんて、一生に一度あるかないかなんですから。

──私はテレビでしかオリンピックを見たことがないのですが、会場のナマ観戦とはそんなに違うものですか?

刈屋 全然違います! どう言えばいいんだろうなぁ……。空気が動いている様子が目で見えるくらい、その場に濃厚な空気が漂っているんです。すると、その空間でしか味わえない感情が込み上げてくるわけですよ。それは日本の若い世代の感性を覚醒させ、日本の未来を変えてくれるかもしれません。1964年の東京オリンピックでは首都高速道路や新幹線が作られたり、経済的にも高度成長を後押ししたり、たしかに様々なレガシーがありました。でも何よりも大きかったのは、日本の若者たちが世界最高峰のスポーツをナマで目撃したということ。当時、まだ20代だった川淵三郎さんのような若者たちが世界のプレーを見て感じた「日本でもこういうふうにサッカーを根づかせたい」という思いがJリーグ発足に繋がったんです。

──だけど今は国民の気分的にもコロナで沈んでしまい、スポーツどころではないという面があるのではないでしょうか。

刈屋 もちろん今はコロナを終息させることが人類にとって最優先。でも、だからといって他の話をしたらダメというのはおかしいと私は思う。たとえば今だとコロナ対策をしっかりしたうえでイベントを開こうとしても、それを非難する人たちがいますよね。コロナのことしか話題にしちゃいけないんだとしたら、戦時中と同じですよ。コロナが大変なのは事実だけど、「そんな中でもオリンピックをどうするのか?」という議論がもっとあってしかるべきだと思うんです。
AUTHOR

小野田 衛


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