格差・貧困問題に取り組み、メディアで積極的に発言をしている作家・雨宮処凛が、バンドやアイドルなどを愛でたり応援したりする“推し活”について深堀りするコラムシリーズ第6回。今回取り上げるのは、韓国芸能界を揺るがせた性加害事件によって、「推し」が犯罪者になってしまったファンの人々にスポットを当てたドキュメンタリー映画『成功したオタク』。監督のオ・セヨンさんに話を聞いた。(前後編の後編)文・雨宮処凛
【前編はこちら】“推し”が不祥事を起こしたらどうする?作家・雨宮処凛が綴る「推しのやらかし」【写真】ドキュメンタリー映画『成功したオタク』場面写真「成功したオタク」=韓国語で「ソンドク」とは、推しに認知されたオタクだという。
監督のオ・セヨンさんは中学生であるK-P0Pスターのファンになり、以来、7年間にわたって「推し活」を続けてきた女性。
しかし、19年3月、彼女の人生は大きく変わる。推しが逮捕されてしまうのだ。しかもその罪が集団性暴行ほか。ここから彼女の苦悩が始まる。自分は被害者なのか、それとも加害者なのか、かつて過ごした幸せな時間まで否定しなくてはならならないのか一一。そんなことをファン同士で語り合ったのが本作だ。
ということで、「推しの逮捕」という経験をした、監督のオ・セヨンさんに話を聞いた。
まず、なぜ推しの逮捕という辛い事実と、ファンとしての葛藤を映画にしようと思ったのか、聞いてみた。オ・セヨンさんはzoom画面の向こうで少し考え、言った。
「当時はショックで、映画にするとかはまったく考えていませんでした。でも事件の後、離れていったファンと残ったファンがいた。この違いはなんだろう、というのが映画を作る一番のきっかけになりましたね」
そうしてオ・セヨンさんによる、ファンたちとの対話の旅が始まる。映画はそれを記録し続けるのだが、まず驚いたのは、ファンたちが「推し」に猛烈に怒っているということ。なんとなく、推しを擁護したり、はたまた事実を受け入れずに「嘘だ」「ハメられたんだ」などと否認するファンもいるのではと思っていた。が、映画に登場するファンは、みんながみんな、怒り狂っている。
それだけではない。「自分が応援を続けたら、それは二次加害になるのではないか」という葛藤ののちにファンをやめたという人も少なくない。
そんな韓国のファンたちの姿勢から見えてきたのは、韓国でこの10年近く盛り上がっているフェミニズムだ。そのことを指摘すると、「そうですね」という答え。