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UPDATE|2024/02/08

『ブギウギ』愛助がスズ子に示し続けた”半歩先”の愛とは?「おはぎ食べたい」に込められた深い想い

左から、村山愛助(水上恒司)、福来スズ子(趣里)。 愛助の病室にて。気丈に振る舞う愛助を見つめるスズ子。 『ブギウギ』第79回 写真◎NHK

現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』(総合・月曜~土曜8時ほか)。第18週「あんたと一緒に生きるで」で、スズ子(趣里)は女の子を出産し母親となった。しかし同日、最愛のパートナー・愛助(水上恒司)が天国へ。スズ子は愛助の死に目に会えず、愛助も自分の子どもの顔を見ることができなかった。「愛にあふれた子になるように」と、母・トミ(小雪)、そして”爺”こと山下(近藤芳正)に育てられた愛助。スズ子にとっては生涯でただ一人、愛した人でもあった。今回は、そんな愛助とスズ子が過ごした短くも濃い時間を振り返ってみたい。

【関連写真】初登場時、まだまだ初々しい大学生だった愛助(水上恒司)

スズ子と愛助が出会ったのは、愛知県のとある劇場だった。この頃、「福来スズ子とその楽団」は戦争の影響でなかなか公演ができず、地方巡業に勤しんでいたのだ。大人に連れられてスズ子の楽屋にやって来た愛助は、まだ幼い顔つきの大学生。東京の大学から大阪に帰る道すがらに立ち寄った愛知で、まさかスズ子と話ができるとは夢にも思っていなかっただろう。

たまたま宿泊する宿が同じだったスズ子と愛助は、スズ子の一声で一緒に食事をすることに。思わぬ展開に箸が進まない愛助と、「六郎に似ている」と少し意識するスズ子。ここで二人の恋が始まるのか…?と思いきや、翌朝愛助は先に宿を出てしまっていた。この時点ではまだファンとスターの関係だった二人。ここでお近づきになるのは時期尚早だったようだ。

その後、二人は帰りの汽車でも同じになるという偶然を重ね「愛助が立て替えてくれていた宿代を返す」という名目で住所を交換。汽車の中で愛助が大手演芸会社・村山興行の息子ということが明らかになったが、愛助は謙虚な姿勢を貫き続け、スズ子も愛助への好感を募らせていった。

ところが、ここから愛助の猛烈アプローチがスタート。スズ子の実家・はな湯に行って「スズ子さんの原点を感じました」とスズ子に手紙を送ったり、「いい蓄音機があるから」と家に誘ったり…。スイッチが入ると一気に雄弁になり、本人の前でスズ子の素晴らしさを語る愛助の姿は、今の言葉でいう”強火オタク”であった。

また、裕福な家庭に育ったことを隠し「ちやほやされるのは嫌」と言っていたはずの愛助が、”ここぞ”というときに高価な蓄音機を出汁にしてスズ子を家に誘ったというのが何とも大学生らしくて可愛らしい。それにホイホイとついて行ったスズ子も、どこかで距離を縮めるきっかけを探していたのかもしれない。

憧れの”福来さん”から大切な人へ、”六郎に似ている男の子”から大好きな人へ…二人の感情が少しずつ変化していく様子は、じれったくも甘酸っぱく、見ているこちらもドキドキしてしまった。スズ子は、「自分よりも10歳も若い村山のお坊ちゃんと付き合うなんて」と思っていたかもしれないが、愛助も愛助で「あの大スター・福来スズ子と自分が…」と思っていたに違いない。

愛助の滋養のために二人が住み始めた三鷹の家では、スズ子と愛助の生活の様子が丁寧に描かれた。食卓でのなんてことのない会話、鼻歌を歌いながら洗濯物を干すスズ子とそれを見守る愛助、小夜を交えて語り合った夢の話。あの家には戦争を乗り越えた後の穏やかな日常が、一つ一つ積み重ねられていたのだ。だからこそ、愛助が再び結核になり大阪に行ってしまった時のがらんどうさが際立っていたように思う。

向かい合う相手がいない孤独、空虚、不安…スズ子だけではなく、ずっと二人の生活を見守ってきた家そのものから、悲痛な叫びが聞こえてきていた。愛助がいないあの家は電球がプツリと消えてしまったように暗く、スズ子の心の明かりも消えてしまったように見えた。そう感じたのは、愛助がいつも半歩先でスズ子の足元を照らしてくれていたからではないだろうか。

AUTHOR

音月 りお


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