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UPDATE|2024/02/08

『ブギウギ』愛助がスズ子に示し続けた”半歩先”の愛とは?「おはぎ食べたい」に込められた深い想い

左から、村山愛助(水上恒司)、福来スズ子(趣里)。 愛助の病室にて。気丈に振る舞う愛助を見つめるスズ子。 『ブギウギ』第79回 写真◎NHK



村山興行の未来を背負うはずだった愛助は、経営者としての才能でもある”半歩先を見る力”を持っていたように思う。それは簡単に培われるものではなく、よく人を観察し、想像し、行動する3つの力がなければ成立しない。愛助の半歩先を見る力は、これまで沢山スズ子の笑顔を引き出してきた。

愛助とスズ子が出会った日のことを思い出してみてほしい。お金を失くした小夜(富田望生)に泥棒疑惑をかけられていた愛助は、次の日の朝にスズ子たちの宿代の半分を支払っていた。いくら愛助が裕福とは言え、誰にでもできる行動ではないだろう。しかも「支払っておきましたよ」とアピールすることもなく、黙って先に宿を後にしたのだ。

夕飯に誘ってくれたことへのお礼の気持ちもあったかもしれないが「宿を出るときに福来さんが困るかもしれない」と、想像力を働かせた上での行動だったに違いない。

また、スズ子が「愛助にふさわしくない」と散々言われていた状況下で、自分が「ふさわしい男になります」と告白した優しさ、器の大きさにも驚いた。坂口(黒田有)に愛助と別れるように迫られても強気に振る舞っていたスズ子だったが、多少なりとも恋心が傷ついたこともあっただろう。スズ子の心情を知ってか知らずか、自分が変わってみせると宣言した愛助の力強い目は、今でも記憶に残っている。

小夜とサム(ジャック・ケネディ)の結婚に反対するスズ子をなだめる姿も印象的だった。「認められるわけないやろ!」と感情をぶつけるスズ子に、小夜が自分とスズ子の交際を反対していたときのことを持ち出し「考え直してあげたらどうや」と声をかけた愛助。

スズ子の気持ちに寄り添いながらそっと背中を押したり、先回りをしてサムの気持ちを聞きに行ったりと、常に先を見てさりげなくスズ子をアシストしていたのだ。

愛助の半歩先を読む力は、自分の体調が思わしくなくなってからも変わらなかった。トミが愛助を大阪に連れ帰ると言い出したとき、トミは「スズ子は用無し」とでも言いたげに話を進めていた。落ち込みを隠せないスズ子に愛助がかけた言葉は「甘いもん食べたいわ、おはぎとか」だった。スズ子は、愛助のためならと闇市に砂糖を買いに行き、一生懸命おはぎを作って愛助に食べさせた。

この愛助の可愛いリクエストは、スズ子が「自分にできることは何もない」と自分を責めぬようにという気遣いから出たのではないだろうか。「スズ子さんにおはぎを作ってもらった」「愛助におはぎを作ってあげた」という分かりやすい”尽くし尽くされた”経験は、どんなに些細な事でも心を満たしてくれるものだ。

さらに、これが「おはぎ」だったことにも意味がある。次の日、トミが愛助に持ってきた見舞いの品もおはぎだったのだ。愛助にとっておはぎは”家族”の思い出の味。これは「スズ子と結婚をしたい」という愛助の強い願いが込められたリクエストでもあったのかもしれない。
AUTHOR

音月 りお


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