愛助が突然誘ったことで決まった箱根旅行も、先見性が際立っていた出来事の一つだ。愛助もスズ子も、これが一緒に過ごす最後の時間になるとは思ってもいなかっただろう。だが、スズ子の記憶の中にいる最後の愛助の姿が、病室で苦しむ姿ではなく無邪気に走り回る姿であったことは、一つの救いになったかもしれない。
スズ子が箱根で撮った愛助の写真は、今も仏壇に置かれている。スズ子の中で笑顔の愛助が居続けられているのは、愛助の「一緒に旅行せえへんか」という提案があったからこそだろう。
最後の最後まで、スズ子を心配させないように「体調が良くなってきました」「もうすぐ帰れると思います」と優しいウソをつき続けた愛助。愛助から一文字取って名付けられた「愛子」という名前も、呼ぶたびにいつでも愛助からの愛を実感することができる。愛助が与え続けてくれた”半歩先の愛”の数々は、今、スズ子の胸の中でキラキラと輝き、進むべき道を照らしてくれていることだろう。
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