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UPDATE|2023/02/26

「どの面下げて…」 世間からの批判を覚悟した渡部建がそれでも本を出した理由

渡部建 撮影/松山勇樹

芸人・渡部建(アンジャッシュ)が書籍『超一流の会話力』(きずな出版)を2022年11月に出版した。20年に発覚したスキャンダルで世間からのすさまじい逆風を浴びた渡部は、メディアの第一線から退く形となった。そんな中での実用書出版に「どの面下げて?」「このタイミングで?」と疑問の声が上がっているのも事実である。もちろん、こうした意見があるのは本人としても承知の上。それでも制作に踏み切った経緯を説明してもらった。

【写真】『超一流の会話力』を出版した渡部建

「自粛期間に入って仕事が何もなくなったとき、知り合いから『ちょっと企業で講演会をやってみませんか?』と誘われたんですよ。『講演会? 何をしゃべればいいんですか?』と聞いてみたところ、『やっぱりコミュニケーションのことがいいんじゃないですか?』とオファーをいただきましてね。それで下調べとして本屋に行ったら、ビジネス書のコーナーに結構な割合でコミュニケーションに関する書籍が並んでいたんです。驚きましたね。『世の中の人って、そんなにこの問題で悩んでいるんだ』って」

とりあえず片っ端から目を通してみたものの、率直に感じたのは「難しすぎる」ということだったという。トークのプロである渡部もレベルが高いと感じたくらいだから、実際にコミュニケーションで悩んでいる人が読んだところで簡単には実践できないかもしれない。

「それともうひとつ気になったのは、すべて“話し手目線”なんですよ。プレゼン力、雑談力、ユーモア術……。聞き手の立場に立った本が一冊もないんです。だけど僕から言わせると、そこは大きな疑問点。というのも『トークスキルの向上=コミュニケーション能力アップ』では決してないですから。それはバラエティ番組に出ていると、ものすごく感じることで。めちゃくちゃ饒舌にしゃべる印象がある大御所MCの方でも、よく観察すると相手の言うことを引き出すことに集中していますからね」

コミュ力アップのために、無理してトーク力を鍛える必要はない。これは本の中でも一貫している渡部の主張である。企業の講演会でも、こうした渡部独自のコミュニケーション哲学を積極的に展開していった。

「いくらトーク能力が高くても、目の前の商品が売れなかったら意味ないんですよ。それよりは口下手でプレゼンが稚拙でも『よし、お前はいい奴だから買ってやるよ』と言われるほうが会社員としては優秀。つまりコミュニケーションのゴールって、人から好かれることにあるんですね。

だから、みなさんも難しいトーク術なんて覚えなくてもいいです。本を読んだところで、プロでもできないようなことばかり書いてあるんですから。それよりも人に好かれるために相手の話をいっぱい聞いてください。大きくリアクションしてください。うんうんうんって向こうの意見に相槌を打ってください。そうしたら必ず相手から『また会いたい』と思われるはずです」

さすがの説得力である。渡部の講演会は評判となり、噂を聞きつけた出版社から「その内容を本にしませんか?」とオファーが届いた。そこで冒頭の問題になるのである。「いやいやいや……。お話はありがたいのですが、僕がどれだけ世間から叩かれているかご存知ですよね?」と固辞する渡部に対して、「そこをなんとか!」と出版社サイドも食い下がったという。交渉は平行線をたどったものの、最終的には「これを読んで救われる方も少なからずいるはずです」という担当編集者の主張が通った格好だった。

「もちろん『渡部の顔なんて不快だから見たくもない』という方が依然として多いのは重々承知しております。僕自身、この本でイメージ回復して復活を図るなんて、そんな大それたことは考えておりません。ただ会社とか学校の人間関係で悩んでいる方の手助けになるかもしれないので、なんとか出版させてください……というのが本音なんです」

AUTHOR

小野田 衛


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