FOLLOW US

UPDATE|2022/07/26

行列ステーキ店経営・元プロレスラー松永光弘が語る「コロナ禍と物価高騰のダブルショック」

自身の名シーンをパロディ。値上げの告知看板の前でポーズをとる松永光弘



このあたりはデスマッチの帝王として、とてつもなく危険な試合形式に飛びこみながらも、必ずリングから生還してきたミスターデンジャーの言葉だけに説得力がある。コロナ禍というデスマッチに無防備なまま臨んだら、とんでもない事態になる、ということを松永は長年の闘いから察知していたのだ。

だが、逆風はこれだけではない。

あまり報道はされないが近年、牛肉の高騰が止まらなくなってきている。ステーキハウスとしては、ストレートに利幅が減ってしまうという大ピンチがもう何年も続いており、コロナとのダブルショックで大変なことになっているのだ。

「中国が牛肉を大量消費するようになったことで、牛肉の価格は世界的に高騰していたんですよ。そこに異常気象などで牛の生育が悪くなったり、という状況も加わり、さらにはまさかの戦争がはじまってしまった。ウクライナが穀物の輸出ができなくなってしまったことで、さらに拍車がかかってしまいましたね。

ウチでも昨年の10月に値上げさせていただいたんですけど、さすがにこのままでは厳しいので7月から、もう100円だけ値上げさせてもらいました。いま1ポンド(450㌘)セットを2850円で提供させていただいていますけど、このボリュームだと4000円を超えるお店もあるようですし、中にはイッキに1000円単位で値上げをしたところもあるようですね。実際、それぐらいやらないと立ち行かなくなるお店も多いと思います。牛肉だけじゃなくて、物価が全体的にあがってきていますから。

できることなら値上げはしたくないですけど、過去の経験上、牛肉の高騰はまだしばらく続くと思うんですよ。急に相場が落ち着くなんてことはないですから。それを考えると、ここで踏ん張っても、のちのち、もっと大変なことになるわけで苦渋の決断ですけど、値上げさせていただきました」

店の前には過去に松永自身が後楽園ホールのバルコニーからダイブした名シーンをパロディーにするような形で値上げ告知がドーンと飾られていた。この取材はオープン前の時間にお店で収録させていただいたのだが、午後5時の開店と同時にほぼすべての席が埋まる盛況ぶり。値上げによる影響はほとんどなさそうだ。これはもう25年間に渡って培ってきた信用はもちろんのこと、ただ安いだけでなく「安いし、旨い!」という評判が近隣住民に浸透しているからこそ、なのだろう。

「大変は大変ですけど、スタッフといつも言っているのは『とにかく、いい方に考えよう!』です。コロナ禍でも2年間、やってこれたわけですし、我々は過去に狂牛病を経験している。あのときは本当に大変でしたから。助成金も一切出なかったし、他の飲食店は普通に営業できているのに、牛肉を扱う店だけが3年間に渡って苦しめられた。いまだから3年間と振り返れますけど、当時はいつまで狂牛病騒動が続くのかもわからないまま日々、奮闘していたわけで、いまだにあれ以上のことはもう起こらないと思っています。そう考えたら、コロナ禍と牛肉高騰のダブルショックも乗り越えられますよ!」

暗いニュースばかりが飛び交う昨今だが、なにごとも『いい方に考える』というデンジャー流の発想は、そんな時代を生き抜くヒントなのかもしれない。実践するのは難しいが、立ち止まっていたら、なにも変わらないのだ。

▽『FMWをつくった男たち』(彩図社)
著者・小島和宏
価格 1,600円+税

【あわせて読む】人気ステーキ店を営む元プロレスラー・松永光弘の、貯金通帳残高ゼロの絶望から店をV字回復させた驚愕の経営術
AUTHOR

小島 和宏


RECOMMENDED おすすめの記事