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UPDATE|2024/04/06

『夏目友人帳』井上和彦が声優人生50周年を1冊に「今は亡き先輩たちにも読んでほしかった」

井上和彦 撮影/松山勇樹

艶のあるハイバリトンボイスで、『サイボーグ009』の島村ジョー、『美味しんぼ』の山岡士郎、『NARUTO』のはたけカカシ、『夏目友人帳』のニャンコ先生/斑など、二枚目からコミカルな役まで幅広く演じ、ファン・同業者双方から絶大なる支持を受け続ける声優・井上和彦。1954年生まれ、1973年デビュー、今年で70歳・声優人生50周年を迎える井上は、初の自伝本『風まかせ 声優・井上和彦の仕事と生き方』(宝島社)を3月25日に上梓。この一冊にどのような想いを込めたのか? 話をうかがった。

【写真】声優人生50周年を1冊に、井上和彦の撮り下ろしカット【7点】

「えっ、もうそんなに経ったの⁉というのが正直なところです。ここまでこの仕事が長続きするとは思っていませんでした」

半世紀という長きに渡る声優としての日々を振り返り、井上はにこやかな表情を浮かべこう答えた。

「僕がデビューしたときに生まれた方は、もう50歳を迎える。そう思うとすごいことですね。それに、僕がこの仕事を始めた頃は、50代で亡くなる先輩が多くいらして。いよいよ僕も50歳を過ぎたとき、『そうか、僕も先輩方の歳を超えてしまったんだ』と、人生の一つ区切りを迎えたように思えて。そこからの日々は、“ご褒美の時間”と思うようにしたんです。様々なことが起こり続けていますが、みなさんが想像するような苦労はなく、常に楽しい50年間、そして70年です」

生き馬の目を抜く厳しい世界において、50年という長きに渡り最前線に立ち続けることは容易ではない。なぜ、この長きに渡る日々に足を止めることがなかったのか?この問いに対し、間を置かずスッと答えた。

「正直、これしかできないんです。事務所社長、音響監督、声優教室の講師を経験し、一時期はこの全てを平行しながら声優としてやっていました。ただ、ある時期にあまりの多忙さから体調を崩し、セリフがもたついてしまうことが続いてしまいました。さすがにこれは(声優として)まずい。最終的に僕はこの世界で何を残したいんだ?と考えたとき、やはりこの声優が僕にとって一番の仕事だと気づき、社長を辞任し声の仕事に専念しようと決めました。
長く続けるコツですか? それは時間を忘れて楽しむこと。楽しいことって、あっという間に時間が過ぎ去ってしまいますよね。僕の声優人生の50年がまさにそうでしたから(笑)。時を忘れるほど楽しめることが、人生を豊かにしてくれるんですよね。今も演出や先生は続けていますが、僕の根っこは声優なんだと、歳を重ねる度に思います」

その長きに渡る50年の歴史を、著書『風まかせ』に詰め込んだ。1996年にフォトエッセイ集『幸せの楽園』(ムービック)の発売はあるものの、自伝を発表するのは意外にも初めてのことだ。

「本にまとめたことで、僕の人生もここでちゃんと一区切りできた気がします。声優生活50周年と銘打っておりますが、僕が生まれてからの70年間も振り返り、『声優』として今ここにいる僕はどのような道を歩んでたどり着いたのか? なぜこの井上和彦が出来上がったのか?を綴りました。こうして自分の人生を追っていくことで、客観的に井上和彦とは何者か?を再認識できたのは、すごく貴重なことでしたね」

AUTHOR

田口 俊輔


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