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UPDATE|2024/02/20

ありきたりが心地よい『作りたい女と食べたい女』が映し出す、”食”と”性”の理想の在り方

左から 野本ユキ(比嘉愛未)と春日十々子(西野恵未)『作りたい女と食べたい女』第24回 写真◎NHK



そして”食”と同様にメッセージ性を込めて描かれているのが”セクシュアリティ”だ。令和に入りようやく広く知れ渡ってきた言葉だが、まだどこか他人事に感じている人もいるだろう。

シーズン1で印象的だったのは、野本さんが同僚の佐山千春(森田望智)に「女性が気になっている」と打ち明けた場面だ。自分の恋愛対象をカミングアウトするときは、相手にどのような反応をされるのかが一番気がかりな点である。「引かれたら?」「理解できないと言われたら?」そんな不安を打ち消した、佐山さんのあまりにもあっさりとした「あぁ、そうなんですねえ」の一言は、カミングアウトの返答としてかなり理想に近いものであったと思う。

女性同士の恋愛が描かれている作品は、どこか神話的であったり、ファンタジー要素が強いものが多いと感じている。依存、憎悪、執着など、マイナスなイメージの感情とセットで描かれることも多い。精神的な結びつきを強く描こうとする一方で、性的な描写が過度に激しい作品もある。

野本さんがレズビアン映画を見て「モヤモヤする」「自分はちゃんとしたレズビアンではないのかも」と思ったのも、映画で描かれている同性同士の恋愛が、エンタメとして消費されるために創り上げられた偶像的なものだと感じたからだろう。

『作りたい女と食べたい女』では、刺激的な運命の出会いが訪れることも、すごくロマンチックな展開が起きることもない。仕事と家の往復、たまに立ち寄るスーパー、マンションの住人との挨拶。時には苦しみを感じたり、些細な幸せを噛みしめたりしながら、いい意味で”ありきたり”な生活がそこにある。

物語の中で野本さんと春日さんに交わる人々は、誰かの食や恋愛の価値観を馬鹿にしたり、咎める人はいない。分からないときは話を聞いてみる、「自分はこう思う」と素直に伝えてみる。無理に理解しようとせず、ただ、知る。受け止める。そんな登場人物の在り方に救われることが多々あるのだ。

「もしかしたら自分が住むマンションに、春日さんと野本さんがいるかもしれない」と思わせてくれるような、素朴でありのままで、でも二人にとっては特別な時間。これからも、ご近所さんになったつもりで二人の会話に耳を側立てていたい。

【あわせて読む】セクシャリティを決めつける危険性を示した『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
AUTHOR

音月 りお


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