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UPDATE|2023/12/27

有村昆が選ぶ2023年映画ベスト10「坂元裕二さんの脚本が圧倒的、真実は多重構造の中に」

映画『怪物』



2位は『正欲』。いまダイバーシティが叫ばれていて、LGBTQという呼び方をすることがありますが,それさえも実は区切られている。そんな属性からも漏れていて、まだ言葉にすらなっていない個性や欲望を持っている人たちがいる、というテーマが衝撃的でした。さらに、食欲とか睡眠欲は罰せられないのに、なぜ性欲だけは罰せられてしまうのかということまで踏み込んでいる。いま問題になってる小児性愛の問題もそうだし、獣姦とか、露出癖、痴漢、 盗撮。そんな特殊な性癖を持ってる人はどう生きていけばいいのかということに、スポットを当ててるんですね。

新垣結衣さんが水に異様な性欲を持ってしまうという役を演じています。僕の想像を超えた性癖だったので、最初は映画を観ていても、その欲望が理解できないんですよ。でも、だんだんそういうことか、とわかってくる。

どんな性癖だったとしても、人に迷惑かけてはいけないし、そこに関しては罰せられるべきだとは思うんですけど、それが今の社会の枠組みとして正しいのか。1つの価値観の中だけで、世の中の常識が進行してしまうと、そこじゃない趣味趣向を持った人たちは本当に生きづらいのではないか。

本当の意味でのダイバーシティとは、そういう人たちも含めた、共存理解を進めていくことなのではと、深く考えさせられる作品でした。

2023年の1位に選ばさせていただいた『怪物』にも、同様のテーマは含まれていると思います。その根底にあるのは、友情なのか、それとも同性愛なのか。子供同士のことなので、たぶん自分たちですらそれがどんな感情なのかわかっていない。それを周りの大人たちが理解できるはずがないんですよね。

『怪物』は、坂元裕二さんの脚本がもう圧倒的にすごかった作品です。いじめの問題を軸に、先生は子どもたちがやっていると思っていて、子供の親は先生が仕掛けていると思っている。いわゆる『羅生門』的な構造で、それぞれの意見や見方があって、本当は何が起きているのかわからない。

8位にあげた『福田村事件』にも通じますが、情報が多くなれば真実に近づけるような気がしますが、実際には複雑になって答えがわからなくなる。物事の要因とか真実というのは、多重構造の中にあるんですよね。

今年は、多様性やマイノリティをテーマにした映画がたくさんありましたが、そこには意見の齟齬や、お互いに理解しあえないディスコミュニケーションといった問題も内包しています。

多様性と相互理解を、ちゃんと自分の頭で考えなきゃいけないというのは、2023年の映画を見ていて何度も感じましたし、結果的にそれが今の時代の世相ということなのかもしれません。

【6位〜10位はこちら】有村昆の2023年映画ベスト10「今年は宮崎駿監督からすごいお題を与えられた」

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