FOLLOW US

UPDATE|2023/07/26

急増する声優の体調不良 声優事務所代表は「今現在考えられる具体策はない」

声優事務所・ディーカラーの代表取締役・平岡照己氏


次に人気声優に仕事が集中しやすい理由として、「まずアニメの制作費上昇です」という。

「現在のアニメは昔と比較するとかなりクオリティが高いです。ハイクオリティを実現するために携わるアニメーターが増えており、30分アニメ1話の制作費は20年前と比較して倍以上かかっています。コストがかかるため、制作陣としてはどうしてもヒットさせたい。そのため、例えばSNSのフォロワーが多い、知名度のある人気声優を起用したくなります。裏を返せば、無名の新人をいきなり主役に抜擢する、みたいな冒険には及び腰になりました。

他にも、声優のアニメ出演のギャラは声優自身と所属事務所が相談して、最終的には制作会社と事務所の協議で決定するため、“人気声優と新人声優のギャラが一緒”ということも珍しくありません。また、後々お話ししますが、『いつか仕事がなくなるかもしれない』という不安を抱え、ギャラを上げたくても上げられない人気声優は多いです。いろいろな事情から声優業界は人気声優のギャラが上がりにくく、その結果人気声優が選ばれやすい状況にある、と言えるかもしれません」

 また、コロナ禍も声優間の格差を助長した要因らしく、「以前は出演者全員が揃って3~4時間かけて収録することが一般的でした。しかし、コロナ禍によって『大人数が集まるのはイカン』ということで、分散して収録することが定着しました。そのため、収録のスケジュールが抑えやすくなり、これまではスケジュールの都合でキャスティングできなかった人気声優が起用されやすくなりました」と続けた。

 本題の体調不良を訴える声優の増加を掘り下げる。ここまでの話を聞く限り、人気声優が仕事をセーブすれば一件落着に思えるが、そう簡単な話ではないと口にする平岡氏。

「やはり芸術系の仕事なので、“いつ仕事がなくなるかわからない”という恐怖心が常に付きまといます。それは売れっ子であっても例外ではありません。体調を崩した声優達も内心は心身ともにしんどかったと思います。それでも声優志望の若者が増えている現状、『一度断ったらもうオーディションが通らなくなるかもしれない』という不安などが頭を過るため、オファーを断ることは容易ではありません」

体調を崩すまで走り続けなければいけない現状ではあるが、体調を崩す声優を無くすためにはどういった対策が考えられるのか。平岡氏は「代表やマネージャーといった事務所側の人間がしっかりコミュニケーションをとって、休みを取るように説得することが大切です。『週1日は最低でも休ませる』と決めている事務所もあります。ただ、『働きたい』『断りたくない』と考える声優も多く、納得してもらうことは大変です」と険しい表情を見せる。
AUTHOR

望月 悠木


RECOMMENDED おすすめの記事