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UPDATE|2023/06/09

指を詰めた元ヤクザ、入れ墨の元自衛官も『仮面ライダー』誕生の舞台・東映生田スタジオ秘話

『「仮面」に魅せられた男たち』(著・牧村康正/講談社


「内田さんの立場というのは、すごく貧乏なプロ野球チームの監督と一緒ですよ。彼が独自に集めた人材も一部はいたけれど、結局は与えられた戦力で戦うしかないわけでね。それに内田さんは球場まで自分で作らなきゃならなかった。ましてや『仮面ライダー』撮影開始のタイミングも目前に迫っていたから、その状況でどうやって陣頭指揮を執るのかという話。彼の根本にあったのは『とにかくこいつらを食わせなくてはいけない』という発想でしょう。『クオリティが高い映像』とか『後世に残る作品作り』なんてことを考えるよりもはるか以前のレベルで足掻いていたんだと思う」

それにしても同書の切り口はあまりにも特殊だ。『仮面ライダー』関連書籍やファンムックは数多く世に出ているが、ここまで制作陣の泥臭い人間関係や生々しいビジネス利権にフォーカスを当てたアプローチは皆無だった。大野剣友会での壮絶な内部抗争、千葉真一が内田有作にビンタを喰らった交渉劇、そして経費使い込みと裏金の疑惑──。

「そこは本を制作するうえで当たり前の話。まずは類書でやっていないことに挑むという決意が大前提としてありますから。なにもこれは特撮に限った話ではなくて、テーマがヤクザ組織だろうが同じこと。自分としては暴露本を作った意識は一切ないけど、誰か特定の人物や事柄について真実を描こうと考えたら、綺麗事だけでは済まないのは当然だと思います」

こうした牧村氏のジャーナリスト精神は、同書の中でも首尾一貫している。特撮やアニメだからファンタジーを守るなどという発想はハナから存在しないのだ。

「それに加えて大きいのは、この本は東映が公認したものではないということ。だから本の中ではキャラクターも使えないわけだけど、初めからそれでも構わないと思っていた。東映の許可の元で作ると、東映に都合の悪いことは書けなくなる。そうすると、どうしたって同じような作りにならざるをえないんです。今回の本では有り難いことに、ディープなマニアの方からも『この話は初めて知った』といった反響が寄せられました。おそらくそれは『今まで関係者から話は出ていたけど、東映のチェックで削られた』あるいは『気を遣って書けなかった』という要素もあるはずです」

【あわせて読む】これまでの「シン」シリーズとは一線を画す『シン・仮面ライダー』に見る庵野秀明の“こだわりと本質”

▽『「仮面」に魅せられた男たち』
著:牧村康正/講談社刊
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https://x.gd/B6NAj
AUTHOR

小野田 衛


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