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UPDATE|2021/07/29

「プロレスには人生を変える力がある」元アイドル、師弟2人が顔面ビンタで紡ぐ執念のドラマ

上谷沙弥、中野たむ 写真提供・スターダム



「私の顔面、変形してませんか?」

試合を終えて、バックステージに戻ってきた中野たむはそう言って笑った。数えきれないほど張られたから、当然、痛みは残っている。ただ、そういう攻めを見せてくれた上谷の成長がとにかくうれしかった。

「ただ、私もここで負けるわけにはいかないんですよ。このベルトを巻いて、まだまだやりたいことがたくさんあるので。上谷に私を超えさせるわけにはいかなかった。別に私が上谷の新境地を引き出したわけじゃないと思います。ああやって感情的になって向かってきて、私を圧倒してみせたのも、もともと彼女が持っていたものだし、まだまだ奥底にはいろんなものが隠れていると思う。そういうものが開眼したら、きっと私を追い越すときがやってくる。まだまだ私たちの『執念のドラマ』は終わりませんよ」

試合後、リング上で中野たむは「また一緒に夢、見ない?」と上谷に握手を求めた。「また一緒に」というのは、アイドル時代のように、という意味。現在、中野たむがリーダーを務めるユニット「コズミック・エンジェルズ」への勧誘であるが、これは他のメンバーの許諾をもらっての発言ではなく、上谷の成長ぶりを目の当たりにして、無意識のうちに口にしてしまった言葉だった、という。

これで上谷が握手に応じれば、アイドル時代から紡いできた物語が大団円を迎えるハッピーエンドになる。逆に上谷がパシーンと中野たむの手を弾き返せば、文字通り『執念のドラマ』に大きな「つづく」が刻まれる。

しかし、上谷はどちらのアクションも起こさなかった。首を横に振って、握手はできないと拒絶しただけだった。

AUTHOR

小島 和宏


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