──先輩からもらったものだから、捨てるのは逡巡しますよね。矢部 思い返すと、河本さんも同じ時期に引っ越しがあって、捨てるのもお金がかかるし、持っていってもらったほうが助かったんじゃないかなと。でも、もらった側はお返ししなきゃとか、これは捨てちゃ駄目なんじゃないかみたいな気持ちが残る。だから、もらったものって決してただではないなって思うんです。もらうことのうれしさ、楽しさ、ありがたさなどと共に、怖さ、呪い、さらには物質ではないプレゼントまで描けるんじゃないかということで、『プレゼントでできている』は描き進めていきました。
──お仕事柄、プレゼントをもらう機会も多いと思います。それを一つひとつ捨てられないとなると、溜まる一方ですよね。矢部 そうですね。いつか何かの役に立つんじゃないか精神が、役に立たなそうなものにもあって。実際、この職業ってどこかで役に立っちゃったりもするから、捨てられなくて困るんですよね。今回のマンガもそうですけど、エピソードトークにもなるし、資料として「それお借りできますか?」と言われることもあるし。
──矢部さん自身、誰かにプレゼントするのは好きなんですか?矢部 好きだったんですけど、ある時期にセンスがないってことに気付いて……。
──『プレゼントでできている』に出てくる矢部さんのプレゼントは奇をてらったようなものが多いですよね。矢部 自分では奇をてらっているつもりはなくて。本当に良いものだと思ってあげているんですけど、「いらない」って言われることが多くて……。パプアニューギニアで買ってきた木彫りとかは、自分にとって旅の思い出が詰まったものだけど、もらう側からしたら、パプアニューギニアの思い出はゼロだから、ただの木彫りなんですよね。そういった、よかれと思ってあげるプレゼントの、“よかれ”って何だろうみたいな問題提起もあります。
──この世界に入る前からプレゼントは好きだったんですか?矢部 絵や紙粘土で作ったものなど、手作りのものをあげるのが好きでした。自分では喜ばれていると思っていたんですけど、実際にもらった人はどう思っているのかは分からないですよね。ただ芸人の世界で言うと、たとえばお見舞いとかで、あえてボケで変なものを持っていくこともあるんですよね。「いらんわ」「今これ使えんわ」みたいなツッコミがあって、その場がワーッと盛り上がればOKというか。いわばボケのプレゼントみたいな。
──矢部さんが井森美幸さんにあげたキツネのお面が、三瓶さんを経由して、後輩芸人の家にあったことに気付くエピソードがありますが、あれもウケ狙いだったんですか?矢部 お面はマジだったんで凹みました。僕があげたその日に三瓶くんにわたり、さらに三瓶くんから、違う後輩芸人に引き取られていて。そのことを井森さんにあげてから数年後に知ったので、本当にショックでした(笑)。ただ、その後輩芸人は気に入って飾っていたので、結果的に一番良い場所に落ち着いて良かったです。
【後編はこちら】矢部太郎が明かす、板尾創路からもらった謎のプレゼント「もらう・あげるの繰り返しが人生」