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UPDATE|2021/01/20

芥川賞『推し、燃ゆ』にみるアイドルを“推す”意味とは?「現実逃避ではなく現実と向き合うために」

『推し、燃ゆ』(宇佐見りん/河出書房新社)


彼女は生きる上での目的を、周りが言う「現実」の中に見つけられていません。その代わりに、唯一まともに出来る、楽しさを感じられる“推す”ことを、目的として考えていて、同時に精神的な柱にしています。

そしてそれがあるから、どうしても避けられないバイトや日常の出来事などの「現実」に直面したとき、「“推し”続けるために仕方ないこと」「乗り切ればまた“推せる”から」と、何とか頑張れているのです。

そう、彼女にとって“推す”ことは、一言でいえば「現実と向き合うための術」。それを「現実逃避」とやめさせしまうのは、ぎりぎり残っていた「現実」へのエネルギーを、奪ってしまうこと…。

ここまで読んで「小説の中のデフォルメした話だよ」と感じている方もいるかもしれません。でも実際、似たような心情で“推し”ている人達は、かなりの数にのぼります。私の友人にもそういった人は多く、例えば、働くことに全く喜びを感じられないのに、「“推し”に少しでも多くお金を使いたい!」という思いをエンジンに、仕事を成功させている人。本当は人と話すのが苦手なのに、「“推し”についてもっと知りたい!」という思いで、積極的に他のファンと話をして、結果的に沢山の人に慕われている人などがいます。また、これを書いている私自身も、かつてそんな風に“推し”ていた経験を持つ1人です。

「アイドルなんか“推し”ても、何の意味もない」という声は未だに多いですが、そんなことはありません。“推す”ことは、「現実と向き合うための術を得る」という、意味のあることだと、考えています。

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