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UPDATE|2024/03/28

明日最終回、『ブギウギ』で福来スズ子(趣里)が切り開いた”泥臭い”朝ドラヒロインの魅力

日帝劇場・舞台にて。「さよならコンサート」で歌手人生最後のショーを披露する福来スズ子(趣里)。3月29日(金)放送の最終回より。写真◎NHK

2023年度後期のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』(総合・月曜~土曜8時ほか)。ヒロイン・福来スズ子(趣里)のパワーみなぎる歌声や、ハツラツとした生き様に元気や勇気をもらった視聴者も多いことだろう。スズ子には、歌手としてのキラキラした魅力だけではなく、梅丸時代から培われてきた”泥臭い”魅力がある。なぜ視聴者は歌手・”福来スズ子”だけではなく、一人の人間”花田鈴子”に心惹かれたのか、その理由を探ってみたい。

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「朝ドラのヒロイン」と聞くと、夢に向かって真っ直ぐ突き進む少女や、おてんばで意志が強い少女の姿を思い浮かべるだろう。失敗や挫折をしても、その姿さえも眩しく輝いて見えるのだ。ところがスズ子は、時たま視聴者から反感を買うほどに、朝ドラのヒロインらしからぬ”泥臭い”感情をあらわにしていた。

スズ子は第17週「ほんまに離れとうない」で、「結婚か歌手か」という大きな壁にぶつかった。村山興業の一人息子である愛助(水上恒司)と結婚するためには、歌手を辞めて愛助を支えなければならない。スズ子は悩んだ末に「ワテ…歌手、辞めようかなぁ」と、歌手人生を手放そうと気持ちを固め始めたのだ。

歌が好きという思いで梅丸に入団し、上京し、戦時中も歌い続けたスズ子の中に「歌手を辞める」という選択肢があるとは思っていなかった。むしろ「そんなの無理や」と、しつこく大阪のトミ(小雪)の元に通い、どうにかこうにか許しを得る勢いで突き進むとさえ思っていた。だがよく考えてみると、それはドラマの中では「結婚も歌手も諦めなかったヒロイン」として美しい物語になるものの、少々リアリティに欠ける展開だ。現実世界で同じ状況が起これば、「結婚か仕事か」に悩み、どちらかを失うことになるだろう。

結婚をとるか歌手をとるか、このスズ子の迷いと決断は、”物語の中”という特殊な状況での出来事ではなく、そこに存在する”福来スズ子の人生”の中で生まれた悩みとして描かれていた。ファンの期待を裏切ってでも「愛する人の側にいたい」という気持ちを優先してしまいたい…そんな自分本位とも言える心の揺らぎを包み隠さず映し出したからこそ、画面越しでも福来スズ子という人間の厚みや深さにが伝わってくるのだろう。

また、第17週と同じくSNSで多くの意見が飛び交ったのが、第21週「あなたが笑えば、私が笑う」で描かれた、スズ子の子離れ問題についてだ。愛助が亡くなりシングルマザーになったスズ子は、育児や家事に追われるも人に頼ることができず、自分一人で全てを背負ってしまっていた。

この時のスズ子には、決して頼れる人が誰もいなかったというわけではない。ただ「愛子と離れたくない」という強い気持ちが前に出てしまい、結果的に稽古や映画の撮影を中断させてしまった。ところが、視聴者から「シッターを雇えばいいのに」「愛子ちゃんと離れる時間が必要」と様々な声が集まっていたある日、スズ子は愛子を置いてアメリカに旅立ってしまうのである。

一部分だけを見た人は「あんなに離れたくないと言っていたのに」「矛盾している」と感じる展開だったかもしれない。でも、人の考えや意志というものは、ひょんなことからコロッと変わってしまったりする。それは朝ドラのヒロインも例外ではない。

スズ子自身も自分の矛盾した感情に気づき、戸惑っていた。だが葛藤しながら人生を切り開いたからこそ、ステージに立つ時間と家族と過ごす時間には、同じ価値があると気づけた。そして、スズ子の歌を「嫌い」「お気楽」と言ったかつてのタイ子(藤間爽子)やパンパンガール、生きるだけで精一杯だった小田島親子など、自分の歌が届かない人が存在するという新たな気づきを得ることもできたのだ。

AUTHOR

音月 りお


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