『I WISH』がリリースされた00年9月の時点で辻は13歳、加護は12歳だった。驚くべきことに、プロデューサーであり作曲家でもあるつんく♂もまだ31歳に過ぎない。それゆえ、当時は壮大なスケールの歌詞が「綺麗事すぎる」と熱心なファンからも揶揄されたものだった。
それが今となってはどうだろう。辻の、加護の、つんく♂の歩んできた人生が歌詞のメッセージ性に独特の深みを与え、唯一無二の説得力を持つに至ったのである。逆に言うと、もし加護のスキャンダルがなかったら、ここまで『I WISH』の歌詞は当日の観客に響かなかったかもしれない。
ここでポイントとなるのは以下の2点だ。ひとつは「人生は長期戦である」という絶対的真理。そしてもうひとつは「取り返しのつかない失敗なんて、そうそうない」という生きる上での希望である。
たとえば政治家の汚職や不倫を糾弾している雑誌社の記者も、私生活では叩けば埃のひとつやふたつは出てくるかもしれない。逆にどんなにまっすぐ正直に生きていても、リストラ、破算、病気、離婚、親の痴呆などのトラブルは予想もしない角度から襲ってくる。それが人生というものである。生きるということは、そういった邪魔くさい諸々と向き合うことに他ならない。『I WISH』が主張しているのは、まさにそういうことなのだ。
加護の生き様は、間違いなく『I WISH』にブルージーな味わいを与えた。 「I=亜依。WISH=希美。つまり『I WISH』とは辻・加護の曲である」とは当時からファンの間で囁かれていた噂。その真贋はつんく♂に聞かないとわからないが、この3月30日に『I WISH』が完成形となったのはたしかだろう。
当日の加護はビジュアルもパフォーマンスも完全に“仕上げて”きており、ハロプロ現役メンバーにも大きな刺激を与えただろう。対する辻も第4子を昨年12月に産んだとは思えないほどの“現役アイドルぶり”を発揮し、その本気度を露わにした。昨年末、日本レコード大賞の舞台でピンクレディーがキレキレのパフォーマンスで現役感を誇示して、視聴者を唖然とさせたのと同じ構図である。となると、気になるのは今後のこと。果たしてW復活はあるのか?
「クビにしたタレントを自社の公演で復活させる」という通常では考えられない決断を下した事務所の度量にはファンからも称賛の声が上がったが、今後のこととなると、まったく予想がつかないと当の事務所関係者が語っている。私たちにできることは、辻・加護という物語を最後まで見守ることだけなのかもしれない。