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UPDATE|2022/09/16

作家・爪切男×漫画家・鳥飼茜が互いの作品に感想を言わない理由「価値観と相反することも」

鳥飼茜 爪切男 撮影/Yukki

実話小説『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で鮮烈なデビューを飾り、以降、精力的な執筆活動を行い、今年の7月には、著者自身が風俗店で経験した“恋愛ごっこ”を赤裸々に綴ったエッセイ集『きょうも延長ナリ』(扶桑社)を上梓した爪切男。そして、リアリティ溢れる男女の心理描写で人気を博し、読者の心をえぐる話題作を次々生み出し続け、今夏には、アラサー男性と風俗嬢の運命の恋とその後を描いた衝撃作『ロマンス暴風域』(扶桑社)が実写ドラマ化(MBS/TBSドラマイズム枠)された鳥飼茜。奇しくも“風俗店”をテーマとした作品を同時期に世に出したふたりは、以前より友人関係にあるが、プライベートでは互いの作品について話すことはほとんどないという。そこで今回は、それぞれの作品への思いや、互いに作品に対して思うことについて語ってもらった。(前編後編の前編)

【写真】友人関係にある作家・爪切男&漫画家・鳥飼茜の撮り下ろしカット【10点】

──小説家と漫画家、「物語を作り上げる」という共通点のあるおふたりですが、プライベートでは互いの作品について、話すことがないというのはどうしてでしょうか。

爪切男(以下、爪)友達になると照れるので。ただ『きょうも延長ナリ』は、『週刊SPA!』(扶桑社)の連載をまとめたものなんですが、その挿絵を鳥飼に描いてもらっていて。最初は「鳥飼と仕事出来るのはいいね」なんて思ってたんですけど、だんだんと恥ずかしくなってきましたね。

鳥飼茜(以下、鳥飼)その仕事が始まってから、プライベートであまり話さなくなったよね。最初からそういう人だっていうのは知っていたし、書かれているエピソードも半分くらいは、直接聞いたことがあったりもしたんですけど、やっぱり口で伝えられるのと、字になったものとでは違う。作品として普遍的に語られると、やっぱり自分の価値観と相反することがあって、自分の中で衝突が起きたりすることは、結構ありました。

──近況報告として聞くのと、作品として対峙するのとでは、捉え方が変わってくる。

鳥飼 これはわたしのコンプレックスもあるかもですが、おっぱいパブの巨乳女性に癒された話とか、「これ、どこを面白いと思えばいいの?」って思いましたよね。それに対して「こういう絵を描いてくれ」と言われることに関しても、抵抗があって。そもそも、女の人の身体や性というものを商品化していることには、すごく反発があるんです。けど、『きょうも延長ナリ』に書かれている、爪さんと風俗で働く女性がやり取りしている生の会話とか、一連のふたりの行動に、ふっとにこやかな気持ちになる箇所もあって、それが不思議でした。

──爪さんのほうは『ロマンス暴風域』を読まれてどう思いました?

爪 主人公のサトミンは、僕とは全然違うなって。僕は風俗には、もちろん自分が楽しむために通っていたけど、最初からどこか冷めているし、変な期待もしていない。風俗で働く女性と過ごす時間は「45分のエンターテインメント」だと思っている。だから、サトミンみたいに風俗嬢さんに惚れてハマるってことはなくて。だからこそ『きょうも延長ナリ』みたいな作品が成り立つ。でも反面、サトミンに関しては、羨ましさもありました。あそこまで感情に任せて暴走できることって、僕のこれからの人生であるのかなって。

鳥飼 爪さんの書いているものにはウエットな情みたいなものがない。男と女の間にすごく距離があって、だからこそエンターテインメントが成り立っている。だから面白おかしいし、ちょっとだけ漏れてくる悲哀にぐっとくるんですよね。


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