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UPDATE|2019/02/17

モーニング娘。が救った「安室奈美恵になれなかった少女たち」



この頃、保田圭は、冗談でも何でもなく、本気で安室奈美恵になりたいと思っていた。しかし安室の最新曲を熱唱したオーディションの最終選考で、保田を見たつんく♂は第一声でこうつぶやいた。

「おまえモーニング娘。らしくないな」

この言葉にショックを受けた保田は落選を悟り、泣きながら家路につく。

1998年はモーニング娘。がメジャーデビューを果たした年であり、そして歌手・安室奈美恵が1年間の産休に入った年でもある。 

90年代半ばから音楽はもちろんファッション面においても時代の象徴となっていった安室は、’97年の『CAN YOU CELEBRATE?』でついに200万枚超えの大ヒットを達成する。

また、私生活では人気絶頂の最中に20歳で母親になることを選択し、この発表も追い風となって彼女は文字通り平成のスーパースターとなった。

しかしつんく♂の言葉から推測するに、安室ブームと同時進行で少しずつ育っていた初期のモーニング娘。らしさとは、安室や彼女を慕う〝アムラー〟たちとはどこか対極のところに存在していた。実際につんく♂が両者をこんな言葉で表現していたことがある。

「安室奈美恵というスーパースターが出てきて、歌って踊れて可愛らしいという三拍子そろった、類稀なる存在がいて」 「たまたまそこに全然違う物質が現れて」

全然違う物質。そのヒントはもしかするとモーニング娘。の初期メンバーオーディションに隠れていたのかもしれない。

安室ブームの仕掛け人であるプロデューサー・小室哲哉の楽曲が音楽業界を席巻していた’97年、後のモーニング娘。の結成メンバーがオーディション用に自ら選んだ1次審査曲は、5人中4人が小室プロデュース以外の音楽作品であった。 

唯一globeの『FACE』で参加した安倍なつみも、本当はUAの『雲がちぎれる時』を歌うつもりだったという有名な裏話がある(UAのシングルにはカラオケトラックが入っていなかったため、安倍はオーディションでの使用を断念)。

1期オーディションに掲げられた「ロックボーカリストオーディション」というワードは結果的に、あの頃の小室サウンドの対極にいた女性たちを自然と集めていたことになる。

しかしそこに続けて投入された新メンバーの保田圭、矢口真里、市井紗耶香は、逆に3人中2人がオーディションで小室プロデュース作品、安室奈美恵の曲を勝負曲として選んでいた面々である。しかも保田にいたっては、完全にアムラーそのものであった。

だが、つんく♂らスタッフはここで〝らしくない〟存在を、あえて船出まもないモーニング娘。にぶつける。

デビューをもって収束する可能性も多分にあった5人のモーニング娘。のアイデンティティと、異分子たる3人の出会い。それは言い換えれば「初めから安室奈美恵になろうとしなかった素人」と「安室奈美恵を見上げて生きていた素人」の、化学反応の始まりだったのかもしれない。

AUTHOR

乗田 綾子


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