9カ月前、荒井優希のプロレスデビュー戦を見て、びっくりした。
もちろん技術的な部分では、まだまだ及第点とは言えなかったが、驚かされたのはその表情だった。試合中、彼女の表情は1秒たりとも「素」に戻ったり、「無」になったりしなかった。喜怒哀楽を表現しながら、目だけは常にギラギラしていたのだ。
当たり前のように聞こえるかもしれないが、極度の緊張を余儀なくされるデビュー戦でここまでできるのは本当に稀有。それだけ腹を括ってリングに立っていることが伝わってきたし、表情だけで「闘っている」ことが見ている側にわかるのはプロレスラーとしての才覚といっていい。昭和の時代のようにプロレス中継が地上波のゴールデンタイムで生放送されていたら、一夜にしてスターになれたんじゃないか、と思ってしまうほどのインパクトをデビュー戦で感じてしまった。
しかし、プロレスラーにとって大事なのは経験値だ。道場での練習はもちろん大事ではあるが、実戦を重ねていくことで「プロ」として育っていく部分はかなり大きい。アイドルとの兼任で、プロレスには「限定出場」と但し書きがつけられた時点で、いささかの不安をおぼえたが、こちらが予測していた以上の試合数をこなしてきた荒井優希は着々とプロレスラーとして進化を遂げ、昨年の新人賞を総ナメに。両国国技館という晴れ舞台での初タイトルマッチというお膳立てもみずからの手で作りあげた。