──ダンスや歌のテクニックうんぬんの話ではなく、内側が空っぽだと表現すること自体がないという焦りですか。
鞘師 極論すれば、技術だけを考えるなら人間が踊る必要なんてないんですよ。機械にダンスさせたほうが正確じゃないですか。歌にしたって初音ミクちゃんに頑張ってもらえばいいという発想もあると思うんですね。実際、初音ミクちゃんに関してはエンターテインメントとしてすごく完成されていますし。ただ、それでもわざわざ人間が歌って、人間が踊るのはどういう意味か? そこを突き詰めて考えていくと、やっぱりその人間が持つ内面の話にならざるをえない気がしていまして。
──なるほど。そこは切実な問題ですね。
鞘師 それにプラスして、やっぱり1人の人間としても中身のない人間にはなりたくないという気持ちがありました。どうせなら豊かに生きていきたいですから。
──卒業後、海外留学を決めたのは?
鞘師 理由は2個あって、「今までと違う環境の中で何かを感じたい」というのが1つ。それからもう1つあったのは、モーニング娘。のメンバーとしてニューヨークでライブしたときに「もう一度、ここに戻ってきたい」と感じたんですよ。留学すること自体はかなり強い意志で決めていたし、他の選択肢は自分の中でありませんでした。
──ニューヨークの何が魅力的に映ったんですか?
鞘師 それまで日本で当たり前と思っていたこととは全然違う世界があったので、そこが衝撃的だったんですよね。強烈なカルチャーショックを受けました。ファンの方の盛り上がり方も違うし、街の雰囲気や空気感も違うし、文化の面も全然違う。本当に自分にとっては新鮮な世界だったので、「ここに住めたら素敵だろうなぁ」ってぼんやりと感じていました。